第7話

 

「それで?」

「はい。孫文との接触はすでに完了。すぐさま清国内で内乱を起こせるとのことです」

「了解。全力で支援しておいてね」

「了解しました。……本当によろしいのですか?」

「ん?何が?」

「いえ。このまま戦争を続け、清を完全に叩き潰したほうが良いのではないでしょうか?日本は未だに死傷者の数は少なく、清の軍はほとんど壊滅状態となっています。今叩けば清を全面降伏させられると思うのですか」

「ふむ。そうだな。しかし、それを得策とは言えない」

「なぜでしょうか?」

「単純な話だ。メリットが少ない。これ以上大陸の権益を得ても日本は上手く活用できないだろう。君。田舎の農村に出向いたことは?」

「いえ。ありません。私は都会出身でしたので」

「ならば行ってみると良い。勉強になるだろう。日本は発展を続けている。しかし、貧困に喘いでいる日本国民がいないわけではない。未だに数多くの日本国民が苦しんでいる。にもかかわらず、これ以上大陸の権益を獲得し、開拓と開発に税と労力を割くなど愚の骨頂だ。僕としては朝鮮や満州でさえ要らぬと思っているよ」

「……なるほと」

 秘書君は少し不満げに頷く。

 ふむ。これでも納得せぬか。

 大陸とっても開拓しないと使えないから、間接的に様々なものを窃取し続けるほうが得なんだけどな。

 別に植民地が増えれば欧州のように強くなって、豊かになるわけではないんだけどな。

「それともう一つ」

「何でしょう?」

「どうやって賠償金を得るというのだ。これ以上中国の権益を奪ってしまえば、賠償金を支払う能力を失ってしまうだろう」

「なるほど」

 今度はがってんがいったように頷く。

 現在の日本において戦争においての賠償金の価値は高い。

 全ての国民が賠償金を得ることを望んでいる。

 当然秘書くんも同様に。

 故に、賠償金が貰えない可能性があるといえば、簡単に引いてくれた。

 これで納得してくれるってマ?

 ちょっと知能が心配でござるよ。

「ご指導ありがとうございます。一度、田舎の農村の方にも出向いてみます」

「あぁ。そのほうが良いだろう」

 僕は部屋から出ていく秘書くんを眺める。

 第二次日清戦争という一つの大きな山場は越えた。

 残っているのは戦後の講和条約。

 第一次世界大戦にはしばらく関与せず。

 日本にしばしの休息が訪れるだろう。

 一仕事終えたって感じかな。

 久しぶりに。

 久しぶりにあそこにでも訪れるかな。

 久しく顔を出していなかったし、寂しい思いをさせてしまっているかもしれない。

 まぁ、彼女が居るからそんなことないかもしれないと思うけど。

 むしろ、僕が邪魔だと思われていないか心配である。

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