特別な日常

比企 新人

三分間待ってやる

 おなかがすいた。

 夜ご飯は一応食べたけれどやっぱりパックご飯とレトルトのカレーだけじゃ足りなかったな。ごはんとカレーを合わせても360グラム。私の体重が52キロだから、えっと、17パーセントくらいになるのか。思ったより割合が大きかったせいでおなかがすいている理由にならなかった。ゲームなんてしないでさっさと寝ていれば空腹に気づくこともなかったのに……それとも空腹で目が覚めてしまっていただろうか。ともあれ空腹を満たすために何かたべたい。

 カップラーメンでいいや、と思ったけど今は夜中の一時二十分。そもそも夜更かしは体に悪いのにこんな時間にカロリーと添加物の塊を口にするのは実際の悪影響というよりも罪悪感がある。ブタメンならいいかな、いいよね小さいし。

 お菓子を入れている棚、このあいだ友達を部屋に呼んだときは「こんなにお菓子おいてあるなんて信じられない!! あんたなんで太らないの!!」って言われた棚からブタメンのとんこつを取り出す。ビニールを破って蓋をはがす。あ、お湯沸かしてない。ティファールに水を入れて電源オン。ほんとはティファールじゃないしあっという間にも沸かないけどわかりやすいのでティファールと呼んでいる。この電気ポットを作った人ごめんなさい。

 夜ご飯がレトルトだった理由は別に忙しかったわけじゃなくて冷蔵庫に食材がなかったのとめんどくさかったからなのです、ごめんなさい。周りの子はみんな、とはいえ友達は多くはないので八人くらいだけど、ほとんど三食自分で作っているし、世間的にも一人暮らしの女性は料理をするものだというイメージがあるけど。私はめんどくさがり屋なのであんまりしない。それでも同じサークルの男の子みたいに毎日外食やインスタント食品というわけでもない。一週間に五食くらいはちゃんと、なのかどうかはわからないけど自分で作って食べている。胸をはれるほど自炊してなかった。悲しい。お湯が沸いた。スチロールの容器にお湯を注ぐ。しまった、顔近づけすぎてめがねが曇った。内側の線が見えない。めがねをはずして線ぴったりにお湯を注ぐ。数少ない特技です、いや探せばもっとましなのあるとは思うけど。あるよね?

 スマホのタイマーをセットする。三分間待ってやる、とブタメンに言い残し部屋を、でないでそのままブタメンを前に腕組み。ムスカはいったいどこまで離れたのだろう。三分で行って戻ってこれる距離を体感で把握して戻ってこれるのけっこうすごいな。それともあんまり遠くに行かずに近くで盗み聞きしていたのだろうか、そんなムスカいやだな。三分というのは何か別のことをするには短すぎるくせにそのまま待っているとひじょーにたいくつである。一分くらいでできるカップラーメンないかな、と思って調べてみた。あった。本当にあるんだ。あ、でももう売ってないみたいだ、残念。そんなに残念でもないか。

 ブーッブーッとスマホが突然振動して危うく落としそうになった。ううむこうも落下の危険があるならなんちゃらリングとやらをつけてみるのもありかもしれない。でもしまうときに邪魔かな、やめた。蓋を完全にはがすと中から湯気がもわっと吐き出される。曇るレンズはもうないぜ、あ、「時間だ答えを聞こう」って言おうと思ってたのに忘れた。どうでもいいか。乾かしていた箸をとって手を合わせる。


いただきます。

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