風に晒された窓

くらげの恋文

どうしようもなく消えてしまいたい夜がある。


深く、深く。一筋の光も届かないほど深く。『ちゃぽんっ』なんて可愛らしい音なら良いのに、ただ重く重く、沈みこんで飲み込まれていく。息苦しくなる感覚。暗闇に、自分の心臓の音だけが響く。

月は、平等にあるものでしょう。だったら、どうしてここにその光が届かないの。真っ暗で何も見えない。怖い。不安だよ。ねえ、早く照らしてよ。もしかして太陽がイジワルをしているの…、なんて考えても答えは分からない。待つことしか出来ないこちら側は、不安を募らせることで時を過ごすほかない。他を悪にして、暗闇をあてもなく彷徨う。縋るような気持ちで、光を探す。


あなたに助けられている私は、あなたを助けることは出来ない。何も届かない暗闇から、ただ強く願い、それでもあなたを救えない。あなたの光しか見えない。その光に安堵する私は、あなたの影を見ることはできない。勝手に救われて、勝手に求める私は、なんて強欲なんだろう。それでもあなたは私の光だ。

もし生まれ変わることが出来るなら、私もあなたを照らす存在でありたい。その影ごと包み込んで、一緒に暗闇に沈みたい。そうしたらどんな深い闇も大丈夫。思いっきり沈んだって、思いっきり照らしてあげられる。


突然、辺りがぼんやりと明るくなる。薄らと届いた月の光は、止まっていた時を動かすような優しさを持っていた。暗闇だったそこは、キラキラと輝く宝石のような場所に姿を変えた。

月が輝くときは、太陽が月を照らすとき。どうしてだろう。こんなにも綺麗なのに、まだ息苦しいのは何故。


そうして今日も私は勝手に救われ、冷たい海を漂う。

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