小さな木製の窓

帰路

「すみません。もう、終わりですか?」

「あ~終わっちゃったんですよ~すみません~。」


街灯が頼りになっている通り。

唯一光の漏れるラーメン屋に顔を出して、すぐに踵を返す男。

すでに営業は終わっていて、最後の客がラーメンを食べ終わるところだった。


男は背中を丸めて数歩歩いた後、今度は薄い明かりの漏れるたこ焼き屋の様子を伺った。

ガラス張りの引き戸から見る限り、常連と思しき男が3人、酒を片手に盛り上がっていた。店主はというと、カウンターの向こう、鉄板の掃除をしているように見えた。

チラッと視線を横にやる男。入口の隣には、持ち帰り用の販売スペースがあった。そこには、8個入りのたこ焼きがひとつ、確かに、置いてあった。


「…すみません!これ、ひとつ。」

「はいよ~。ただいま!」


入口ではなく、その横の小窓から店主を呼ぶと、店主は鉄板の掃除を辞めてこちらへやってきた。


「はい、まいどあり!」


受け取ったたこ焼きは、まだほんのり温かかった。

小さな賭けに負けて情けなく踵を返すより、こっちの方がよっぽど良いと、男は思った。

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