第52話 教員彩々(ゴリゴリ熱血教師 5)

 授業が終わり、私は保健室へ直行した。


 白い布を隔てたベッドの上、何も言わず座っているまこの顔色は大分柔らかい。


 「具合、良くなった?」


 「うん。もう平気」


 保健室の先生が席を外していたものだから、黙って帰るわけにもいかず、私とマコは彼女の帰りを待った。


 「今度・・・」


 「ん?」


 暫く温かな沈黙にまどろんでいると。

 ふいにマコが口を開いた。


 「今度、家に遊びにくる?」


 「いいの?」


 「うん。京に妹、見せたいんだ」


 マコの笑顔が自然なものだったから、ほっとして私は少し笑ってしまった。


 「絶対行く。ありがとう。けど・・・」


 「けど?」


 「マコの家って、犬飼っているよね」


 実は私は犬が怖い。


 嫌いというわけじゃなくてこわいんだ。

 だって、嫌っているのは私じゃなくて犬のほうだからね。


 大概の犬は初対面であっても遠慮なんて全然しないで、私にがぶりと噛みついてくれる。

 顔面を噛まれたこともあるし、一度は太ももの肉を食べられちゃうなんて酷い目にあったこともあるんだ。

 

 「大丈夫だよ。ちゃんと繋いでおくから」


 こんな時。

 多くの人は「大丈夫。うちの犬は噛まないから」なんて言うものなんだけど。

 マコはそうじゃなかった。

 だから私は凄く嬉しくなって、ニコニコしながらマコの背を叩くことができる。


 「ありがとう。近いうちに必ず、遊びにいくよ」


 「明日は?母さんに話しておくから」


 「わかった。それじゃぁ、明日!」


 だけど、この約束が果たされて私がマコのかわいい妹と会うことができたのは、結局もうだけ少し先のことになってしまった。


 翌日。

 教室は酷く穏やかだった。


 ゴリラ先生は宣言通りマコから心を離そうとしなかったし、初め心細げだったマコもすぐに安心した様子でいつもの笑顔を見せるようになった。


 だけど、せっかくこうして良い流れができたのに、私の身体は昨日の衝撃を流しきれなかった。

 情けないことにこれ以上私につきあってくれなくなっちゃったんだ。


 この日。

 男女分かれて保健の特別授業があったんだけど。

 その授業が始まる少し前。

 笑えるくらい打たれ弱い私の身体ときたら、完全にいかれてしまった。

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