第35話 まさか・・・ 7

 翌日。

 連れに改めて妊娠の報告をした私だったけれど、情けないことに不安を吹き飛ばしてやることは、全くできなかった。


 一週間後に件のお爺ちゃん先生の再診を受けねばならないことを思うと、これ以上ないほど気が滅入って動悸がしてくる。


 気分を変えたくて、仕事や好きなものに没頭してみようとしても、ふいに噴き出してくる不安をぬぐい去ることがどうしてもできなかった。


 結局がっつり不整脈が出て呼吸が苦しくなってしまった私は、どこに行くあてもなく、末の子がお世話になっている小児科へと逃げ込んだ。


 全く専門外の診療科目とわかってはいたけれど、この小児科の先生はいつもとても良いアドバイスをくれるし、直接的な力にもなってくれる勇気のある先生だったものだから、無理を承知で相談に行ったのだ。


 顔を見たとたん、ほっとして大泣きしながら洗いざらい吐き出してしまうと、少し気持ちが軽くなってきた。


 「ありがとうございます。専門外なのに話を聞いてくれて」


 時折相槌をうちながら、最後まで話を聞いてくれた先生にそう言って帰り支度を始めると、先生がいつになく厳しい目でこちらを見つめている。


 いくらなんでも小児科内科に来て産婦人科や循環器の相談に来たんじゃ迷惑だったかな。

 叱られてしまうかもしれないと怯えだした時、先生が大きく息を吐いた。


 「なんだそれ?一体どこの医者ですか。・・・いや、医者なんて呼びたくもないですが、なんてやつですか」


 「へ?」


 どうやら聞き耳を立てていたらしい仲良しの受付のお姉さんや看護師さんたちも怒り心頭といった表情かおで部屋の外から遠巻きにこちらを見守っている。


 「とにかく、おめでとうございます。私でよければ、すぐ産婦人科に紹介状書きますよ。安心してください。そんなふざけたところに行かなくたって、他にいくらでもちゃんとした病院も医者もいますから」


 こうして私は、ようやくちゃんとした病院を紹介してもらえることになった。


 早速翌日診察を受けに行くと、やはりここでの待ち時間は半端なかった。

 3時間ほど待ってようやく診察を受ける。


 この先生は若くて面白味はないけれど誠実な先生だった。


 私の持病やお腹の様子を丁寧に診て、「うちの病院のキャパでしっかり出産をフォローできるか、他の科の医師にも相談してみますね」と非常に頼もしい。


 ちなみにこの日の診察料、お爺ちゃん先生と同じ診療内容だったが、会計は2千円ほど。

 私はここでようやく、前回の診察料の異様な高額さに気づいた。


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