第22話 みっちゃん 2

 そんな日が何日も続いた夏休み前のある日。


 後にクラスメイトから聞いた話によると、もはやBGM状態になったその問いかけを、この日も彼女たちは飽きもせずみっちゃんに重ね続けていたようだ。


 「いい加減好きな子教えてよ」


 「みっちゃんは、ナミが好きなんだよね」


 そんな質問の数々が、休み時間の教室で飛び交っていたんだ。


 いつもと違ってしまったことといえば、ただ微笑んでいるだけだったみっちゃんが、なぜかこの日はそうはいかなかったということ・・・・・・。


 さて、ここからようやく私自身の記憶になるんだけど。


 例のごとく、校舎裏にあるお気に入りの池の周りで昆虫採集を終え、飼育小屋のニワトリをつつき回し、教室帰りにトイレに寄った私は、洗った手をシャツでゴシゴシやりながら教室に入った。

 入ってすぐ、みっちゃんがナミちゃんのグループに囲まれているのが目に入る。


 「ねぇ。返事しないってことはそうなんだよね?」


 例のおっかない彼女が満面の笑みでみっちゃんにそんなようなことを話しかけている。

 ナミちゃんはみっちゃんの横に椅子を並べ、寄り添うように座っていた。


 私が品の欠片もなく教室のドアを無遠慮にガラガラ派手に開けたもんだから、こちらに背を向けていたみっちゃんが振り返る。


 私はなんだか嫌に胸がざわめいた。

 みっちゃんの目が哀しそうに・・・沈んでいるように見えたんだ。


 とにかく、この優し過ぎる友人にはいつだって幸せに笑っていて欲しかったから、見たことのないその表情に、胸が握りつぶされそうに苦しくなる。


 私をじっと見つめたまま、少しの間をおいてみっちゃんが口を開いた。


 「違う」


 ゆっくり立ち上がり、みっちゃんはナミちゃんから少し離れた。

 震える白い指先をこっちにむかって真っ直ぐに伸ばす。


 「きょうだよ」


 正直いってこの時の私は、一体何が起こったのかさっぱりわけがわからなかった。


 そりゃそうだよね。

 だって、教室に戻るなりいきなり名指しをされたんだから、わかるわけがない。


 それに相手がみっちゃんでなければ、糾弾されるに値するような、思い当たる悪事が多すぎるんだ。


 トカゲの餌用に集めておいたコオロギご一行様が逃げ出してしまったのか、はたまた机の中に眠っていたカビの生えたパンでも見つかったのか。


 ちょうどその前日に、家に持ち帰ろうと袋に入れて机の横にひっかけておいたアオダイジョウのやつがいつの間にか姿を消していたから、そいつがふいに教室に現れでもして、騒ぎになっているのかもしれないと思ったんだ。

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