第20話 意地悪はよくないよね 2

 そんなことばかり繰り返しているんだから、もちろん私を心の底から嫌っている人も多い。


 姿を見るなり顔をしかめ、掴みかかってくる奴だっている。

 むしろそうしてくる奴の方が多いくらいだ。


 これでもかっていうくらい深々と腕に爪を立てられながら、私も負けずに相手の腕に爪を立てる。


 「くだらない真似してんなよ。」


 「痛いな。離してよ。」


 「それは俺だって同じだろが。二度とこんな真似しないって言うなら離してもいい。」


 「は?あんたに関係ないでしょ。」


 余談だけれど、私の一人称は連れと一緒に過ごすようになるまで、授業での発表や職場みたいなちゃんとした場所以外ではずっと『俺』だった。


 とにかく、月に数回ほど、毎回こんな感じのやり取りが繰り返される。

 そんでもって、必ず相手が先に音を上げるんだ。


 だって、身体がちょっとくらい痛いのなんて、私には全く関係なかった。

 むしろ持て余している業火のような怒りを鎮めるのにちょうどいいくらいだ。

 腕についた傷なんてほっといてもすぐに消えてなくなるしね。

 

 「わかったから離して。もうやらないってば。」


 そう言って涙を浮かべ始めた相手の目をぐっと見据えたまま、私は手を離す。


 「あいつらに謝りに行こう。一人が嫌なら一緒に行ってもいい。」


 「なんでよ。もうやらないって言ってるんだからいいでしょ。」


 「あのさ、お前が謝んなかったら、あの子たち年上の人間はいじわるでおっかないって思ったままになっちゃうだろ。傷つけたままなんて絶対にだめだ。最低だよ。」


 「・・・・・・。」


 「それにわかってるのか?お前、あの子たちにすごい嫌われたんだぞ。同じものを気に入ってる者同士なのに、なんでこんなことになるんだ。」


 「あんたのことは大嫌い。」


 「そんなのはどうだっていいよ。俺はお前のこと、別に嫌いじゃないし。」


 「・・・・・・。」


 「お前、あの子たちに毎日会うのに、気まずいまま一緒に過ごすのか?馬鹿ばかしい。」


 私がそんな風に吐き捨てるころには、不穏な空気に気づいた教員が駆けてくる。

 この相手とのやり取りは結構よく覚えている。

 同じクラスの子だったし、ちょっと前にあることで揉めることになった相手のうちの一人だったんだ。


 結局、騒ぎを起こして教員にこっぴどく叱られるのは、もちろんしょっちゅう悪さをしてる私だけで、しとやかに泣いてる相手は解放されて終わる。


 そんでもってすっかり広まった噂を耳にしたいつもの友人たちに、れられたり叱られたり慰められたりしながら、でっかいランドセルを背負ってあの場所へ帰るんだ。

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