第18話 友 3
母の怒りはもちろん想像を絶するものだったよね。
当時大人気連載中だった某アニメの中で、主人公がスーパーなんたら
こめかみに青筋を浮かせた母の全身からは、湯気が見えるんじゃないかってくらい凄まじい怒りが
笑顔で彼らを帰した母に、私はぺしゃんこに潰されるような勢いで叱られたけれど、この出来事の後からというものの、不思議と母の、友人たちに対する考え方が柔らかくなったんだ。
とはいえ、もし本当に土壇場で欠席なんてしていたら、発表会を運営する先生たちにもすごく迷惑をかけるところだったんだから、終わりよければ・・・とはとても思えなかったんだけどね。
とにかくだ。
今だからこそ思えることなんだけれど。
星の数ほどの人とすれ違っていく中で、この友人たちに巡り合えたことは本当に幸運で、感謝の一言に尽きる大切なものだったんだ。
だってきっと、彼らがいなかったら当時のちっさい私は(今でも小さいけど)痛みに飲み込まれてしまった。
耐えられずに道理を見失っていたかもしれない。
それに、自分を物凄く粗末にしてしまっていただろうからね。
あまり格好のいい話じゃないけれど。(ここまでも大概みっといいとは言えないけど。)
「お前だけは家族じゃない」なーんて言葉を、毎日かかさずそれはそれは丁寧にささやかれていた私には、いつの間にかとてもおかしなくせができてしまっていたんだ。
自分の身体を痛めつけるっていうね。
不思議なことに、そうしている間は現実がふわふわっと遠のいていく。
もう一人の私を離れたところから眺めているような、じんわり痺れたような感じがして、ちょっと楽になる気がしていたんだ。
爪を立てて肩のあたりを思い切りえぐる程度のことだったんだけど、驚いたことに、服に隠れて見えないはずのこの傷を、鋭い友人たちは見逃さなかった。
やっぱりこの時もまんまとみっちゃんに気づかれた私は、異変を感じてすかさず集まってきた彼らに囲まれながら、なんとなく「これは怒られるな」って身構えた。
だけど、彼らは誰一人として「やめろ」とも「馬鹿じゃないか」とも言わなかったんだ。
ただ、「自分でやったの?」とだけ静かに問いかけてきた。
言葉の代わりに一つだけうなずいた私をひたすら哀しそうに見つめながら「そう」と言って、それきりすっかりだまりこんでしまうものだから、私は何も言えなくなった。
だって・・・私が転んだ時も、雨上がりの畑にハマって動けなくなった時も、変質者に連れ去られそうになった時も・・・彼らは一度だってほったらかしたりしなかった。
脱げた靴を拾って、ランドセルを持って、私を背負って、自分だって危ないのに迷わず助けてくれたんだ。
いつも悪口を言い合ってばかりいるっていうのに、自分だって震えちゃってるくせに・・・こういう時に限って、私の背や頭をトントン叩きながら必死で元気づけてくる。
そんな風にいつだって大切にしてくれていたのに。
私自身が誰よりも一番、私を粗末に扱ってしまったんだ。
これ以降、私は自分に痛みを与えることがどうしてもできなくなった。
だって、それをすると、彼らの
代わりに、『髪を引っこ抜く』っていう小さな癖は出来てしまったけれど、これくらいは勘弁してもらいたいな。
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