第2話 とりっくあういんどう?

 なんだ? なんだなんだなんだなんだ??

 なんなんだこれはーーーーーーーー!!


 神有かみありツキト! 十七歳! 学園イチの美少女、学園のマドンナ、酉下とりしたミナミ先輩と腕をくんで登校中!


 なんで? 本当になんで? あと俺の目の前の歩いているおねーさんに、なんでみんな気がつかないの、もうハロウィン終わっているのに、もう十一月なのに、ずっと小悪魔コスプレをしているおねーさんになんで気がつかないの。


 俺は、学校までの長い長い坂道をのぼる。海沿いの小高い丘に立っている学校までの坂道をのぼる。


 学校までの長い長い坂道は、生徒であふれかえっている。なもんだから、俺とミナミ先輩は、さっきからいろんな生徒にジロジロジロジロ見られている。


 ああ、学校で悪いウワサが広まるよ。俺イジメられるんじゃないかな? だって学園のマドンナと腕組んで歩いてるんだよ? ミナミ先輩の形のよい胸が、俺の腕に当たっているんだよ? あのミナミ先輩が押し付けているんだよ?


 ほら……あそこでヒソヒソ話をしている。


「ミナミ先輩だ。今日も綺麗だなぁ。神有かみありとお似合いだなぁ」

「ミナミ先輩、今日もお美しい! そして神有かみあり先輩はなんてりりしいのかしら?」

「ミナミ先輩と神有かみありならしょうがないな……」

「まさに、美男美女カップルだな」


 は? なんで?? なんで美男美女カップル?? なんで俺が美男にカウントされてるの? てか、みんなヒソヒソ話の声が大きくない??

 俺、いつからこんな地獄耳になったの? てか、声が俺の脳内にダイレクトで聞こえてきてないか? なにこれ? ほんとなにこれ???


「とりっくおあとりーと??」


 さっきからずーっと僕の前を歩いているおねーさんの声も、俺の脳内にダイレクトに聞こえてくた。ちょっとなんなのこれ? あと、本当にこのおねーさんのことみんな見えてないの?


「とりっくおあとりーと??」


 おねーさんがふりむいた。こんどは直接話しかけてきた。おねーさん、後ろ歩きして器用だな、まるで歩いてないみたいにスイスイと……え?


 ういてる! おねーさんういてる!! 足がフワフラと地面から十センチくらいういてるうううう???


 飛んでいる? あ、浮かんでいるのかな?? どっちでもいいや、どっちにしたっておかしいや! なんで? なんで重力をムシできるの??


「おねーさん、どうして浮いているんですか」

「とりっくおあとりーと??」


 だめだ、質問にも答えてくれない。〝とりっくおあとりーと〟しか言ってくれない。


「とりっくおあとりーと??」


 うん? そういえばこのおねーさん、きのうは〝とりっくおあとりーと〟の質問に答えたあとに消えてくれたよな。

 そうだ! 思い出した!! おれが「とりーと」っていったら、なんだかオレンジ色のオーラに包まれたんだ! 


 今の状態って、ひょっとしてその影響??


「とりっくおあとりーと??」


 てことは、質問に答えれば、このおねーさんは消えてくれるわけだ。よし、質問に答えよう!!


「とりっくおあとりーと??」


 俺はきのう、おねーさんに〝とりーと〟って答えたからこんな目にあっているんだ。

 嬉しいことはうれしいけど、カノにはフラれてしまった。めっちゃ悲しい目にあっているんだ。


 カノは、五十メートルくらい前方を歩いている。ひとりで登校している。


『きのうの話は聞かなかったってことで!!!』


 ほんとうは、いっしょに登校するはずだったのに、カノのとなりには、俺がいたはずなのに。なんで、俺のとなりには学園のマドンナのミナミ先輩がいるんだろう……うれしいけど、やっぱり悲しい。

 押し付けてくるおっぱいはうれしいけど、やっぱり悲しい。


 俺が好きなのはカノひとりだけなんだ!!!!


 悲しんでいる場合じゃない! 俺は、カノとつきあうんだ!! これはなんだかよくわからない、オーラ的ななにかでおこってしまったハプニングなんだ。

 おねーさんの質問に、〝トリート〟って答えちゃったからこんな目にあっているんだ!


「とりっくおあとりーと??」

「トリックでおねがいします!!」


 おれは力強く返事をした。おねーさんのことが見えないミナミ先輩が「ビクッ」として、俺の腕にしがみついてきた。おっぱいが当たってきもちい……じゃない!

 いっこくも早くこのへんてこな状況を、おねーさんにリセットしてもらわないと!! そして、おねーさんにおひきとり願わないと!


「いえす! とりっく!! とりっくあういんどう!!」


 おねーさんは、よくわかんないことをとなえて、指をパチンとならした。すると、あたりが一面モスグリーン色になった。え? なにこれ??


 ブワーーーー!!


 とんでもないつむじ風が巻き上がった。そして、


「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」

「きゃーーーーーーー!」


 登校している女子のスカートがもれなくめくれあがった!

 そして、俺ははっきり見た!


 白、ピンク、ストライプ、水玉、チェック、なんかむらさきのレースの大人っぽいのやら、色々スゴイものを見た。

 ミナミ先輩の、白だけどスケスケでかぎりなく肌色の「はいてます?」ってかんじの、とにかくスゴイのも特等席で見た。


 でも、俺は五十メートル先の、カノのモスグリーン色のパンツに釘付けになった。

 こころをうばわれた。


 そして、カノは、パンツを見ている俺のことを、めっちゃケーベツした目で見ていた。

 五十メートル先でもハッキリとわかる、冷たい、氷のような、悲しいまなざしだった。

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