魔物牧場、開設?

 くすんだ冬の青空、広がる牧草、背後の小屋、視界の端に見えるデカい山。

「これ、城内なんですよね……?」

「ああ。空間魔法を駆使してな」

 アヴァロン・キャッスルの扉のうちのひとつを開けたら、この空間に出た。マオウッテスゴーイ。


「今のところ、保護した魔物が数匹いるのみだが……自由にしてもらって構わん。足りんものがあれば言ってくれ」

「分かりました。……ちなみに、ほかの人員は居ないんです?」

「それがな、魔物を狩る者はいても世話できる者が誰も居なくてな……魔力にあてられて魔物が逃げ出す方が多いしな……」

 あーなるほど。上位の魔物は強い魔力とかを好むけど、普通、魔物にとって強すぎる魔力=とんでもない強敵という式が立つ。だから、上位の魔法使いや魔人等は、魔物を狩ったりスキルや魔法で使役することはあれど、育てる者は少ないだかなんだか。

 えっ、俺の魔力?平均よりは高いけど、キャメロット魔法学校どころかあのクラスの中でも中の下くらいだよ。


「今居る魔物のリストがこれだ。小屋とその中身は好きに使ってもらって構わない。私は仕事があるので戻るが……」

 リストを受け取って、少しすまなさそうに言うアダムさんに向けて俺は言った。


「分かりました、まあ、やれるようにやってみますよ」


◆◆◆


 さて、とリストに目を通してみる。とりあえず今いるのは、灰鳥グレーバード湖上馬ケルピー氷狼アイスウルフの3匹だそうだ。リストに挟まっていた見取り図を見つつ、とりあえず3匹とも居そうな湖の方へと向かう。


 城内とは思えない広さなのはとりあえず置いといて、湖は小屋の裏にあった。

 まず見つけることが出来たのは、湖上馬ケルピー。湖の上で佇んでいるのが見える。

 ただ、湖上馬ケルピーにしてはぼんやりしすぎている気がする。湖のほとりまで近づいてみても、こちらに気がつく様子がない。


 基本的に、湖上馬ケルピーは警戒心が高くて狡猾。野生の湖上馬ケルピーは、魔法やらその綺麗な見た目やらなんやらで獲物を水中に沈めて捕食する。時には人間も被害に遭う。特に俺みたいな、魔力が高めなだけの人間とかいいカモだと思うんだけど……。


 少し観察してから、他の2匹はどこだろうかと軽く見回す。

 すると、おそるおそるといった様子でこちらの様子を伺う小さな灰色の鳥、灰鳥グレーバードが居た。木々の間から、木の根にちょこんと乗ってこちらの様子を伺っている。


 灰鳥グレーバードと目が合い、しばらくお互いに硬直した状態が続いた。

 こういう時は、下手にこちらから動かない方がいい。突然動くと、驚かせてしまう。

 灰鳥グレーバードは少しの間こちらを眺めたかと思えば、ゆっくりとこちらへと近付いてきた。灰鳥グレーバードは個体差こそあれど警戒心が低い。繁殖力も低いのに、警戒心が低いせいでよく捕食される。なんでそうなったのやら……。


 ちょこちょこと近づいてきて、足元まで来た。じっと見上げてくる。何がしたいんだ。……あ、もしかして腹が減ってる?

 灰鳥グレーバード湖上馬ケルピーも、どちらも魔力を主にエネルギーとしている。その上で、灰鳥グレーバードは植物や穀物、湖上馬ケルピーは肉類や水草を好む。しかし、軽く周囲を見ても灰鳥グレーバードの好みそうな木の実や植物は見当たらない。


 ところで、俺の得意なことのうち、『道具作製』には「即興錬成」とかいう半分錬金術に突っ込んでる分野がある。何にも素材がない所で、応急で必要なものを作るために、自らの魔力を使って素材を作り出すものだ。

 作り出すものは、鉱石、肉、植物etc。凄い人は即興錬成で作りだした素材だけで、何千本もの剣を作り出す事も出来る。


 つまり何をしたのかと言うと、「即興錬成」で木の実をひとつ作り出した。魔力が割と持っていかれる。

 その木の実を灰鳥グレーバードに差し出してみる。灰鳥グレーバードは少し警戒した様子を見せたが、すぐに飛びついてきた。

「おわっと」

 小さな鳥の魔物とは言えど、両掌におさまるくらいの大きさはある。バランスを崩しかけた。


 と、灰鳥グレーバードに意識を向けていたところ、突然後ろから引かれる。ビビりつつ振り返ると、いつの間にか湖上馬ケルピーがすぐ側まで来ていた。グイグイと裾を口で引っ張っている。

 もしやコイツも?と思って魚(の死体らしきもの)を作ってやると、もっもっもと食べた。湖を見てみれば、魚どころか水草のひとつもない。


 餌になるもののひとつもないのは、どういう事だろうか?と、ふと考えてみる。

 魔物は魔力があれば長いこと何も食べなくても生きられる。特に、魔力濃度の高い地に生息する魔物……例えば鷲獅子グリフォンとかドラゴンとか、そういう奴らは1度食べれば数十年食べなくても全く問題ないらしい。


 もしや、と思って魔力濃度に目を向ける。凄くとは言わずとも、かなり濃い。流石魔王のお膝元というか本拠地(?)というか。

「……あ〜、なるほど?」

 多分、アダムさん達(?)は、『魔物には魔力が必要』という所から、魔力の濃い環境下に置けば大丈夫だと思ったんだと思う。間違ってないし、6割方正解みたいなものだ。

 でも、完全に魔力だけで長く長く生き続けられるのは、上位の魔物や一部の特殊な魔物に限られる。大概の魔物は、そこら辺を漂ってる魔力にプラスして、何かしらを食べる。

 魔力が濃い環境下は、食べる量が減るということにはできるけど、何も食べないというのは難しい。


「ってことは、まずは環境を整えるとこから、だな」

 足りないものを調べて、アダムさんに報告して、増やせるものは増やしてもらう。並行してここの植生とかもある程度調べておいて損は無いだろう。


 と、そうそう。あと氷狼アイスウルフも居るんだった。とりあえず存在を確認しに行かないと。

 そう思って周囲を探索しようと湖から背を向けた時、ズシッとした感覚がフードの辺りからした。

 なんだと思って手で探ってみると、もふっとした感覚。足元にいた灰鳥グレーバードが居ない。フードの中に何故か収まっているようだ。

 ……もしや、餌をやったから懐かれた?まあ、灰鳥グレーバード自体警戒心低いのは知ってるけど……。


 ちょっと重いけどまあいいか。湖上馬ケルピーの方を1度見てから、湖上馬ケルピーが首を傾げを見てから近くの林へと向かった。


◆◆◆


 さて、氷狼アイスウルフウルフ系の魔物だ。アイスと名がつくものの、だからといって寒冷地に住んでいる訳では無い。大概は、森林や平原に生息していることが多い。寒冷地にも生息してることもあるけど。


 ウルフ系の魔物は群れで生活している。なんだったか、群れで行動する時に強化されるとかいうスキルだったかを生まれつき所持しているそうで。

 だけども、リストには「1」としか書いてない。はぐれなのだろうか?


 と、林の中をフードに灰鳥グレーバードを入れたまま進んでいる。進んでいる……んだけど。

「お前もついてくんのか……」

 後ろを振り向くと、湖上馬ケルピーがついてきている。立ち止まって見れば、首を傾げている。湖上馬ケルピーはカッポカッポとゆっくりついてくる。元々水陸どっちにも対応出来る魔物だから、歩くのに支障はないのだろう。


 まあいいや。氷狼アイスウルフを探そう。そう考えつつ林を進む。すると、なにか自分と湖上馬ケルピー以外が動く音がした。


 茂みから何かが飛びかかってくる。慌ててその場を飛び退くと、俺がいた場所に、結晶のような爪と角を持つウルフ……氷狼アイスウルフが1匹、そこにいた。

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