第41話 罪なのでしょうか?
「華澄はすごいわね」
私、大槻華澄にとって大好きな両親にそう褒められるのはとても嬉しいことでした。
愛情を持って育てられた私は尊敬する両親に恥じないよう、そして褒めてもらえるよう生きてきました。それなりに厳しく育てられましたが、それが私の為だというのは分かっていましたし、ことあるごとに褒めていただいたので苦ではありませんでした。
もちろん常に結果を出せていた訳ではありません。それでも最善を尽くし、少しでもいい結果が出るよう努力しました。
そんな私にとってずっと学年主席で多くの習い事で結果を出している楠木楓さんは憧れの存在でした。思ったことをそのまま口に出す為疎まれることもあった私とは違い、彼女は性格も良く学校の人気者でした。
勝手にライバル認定して事あるごとに張り合っていた私にも彼女は普通に接してくれました。私は彼女と互いに切磋琢磨して高め合い、その上でいつか彼女を越えることを目標にしてきました。
そんなある日、彼女のご両親が事故でお亡くなりになりました。両親が大好きな私は彼女もさぞ落ち込んでいるだろうと思い、彼女の力になろうと思いました。
しかしお葬式等で数日休んでいた彼女が登校してきた時、私は困惑しました。私以外の人達も同じでしょう。落ち込んでいると思っていた彼女は特にそんな素振りを見せませんでした。そして言動が様変わりしており、更にはこちらが素だと言うのです。困惑するなと言う方が無理でしょう。
初めはご両親が急に亡くなって混乱しているのかと思いました。しかし何度聞いてもこちらが素だと言う彼女の答えは変わりません。ただそうして今の彼女を否定するたびに彼女の目が濁っていくことにこの時の私は気付きませんでした。
そうして少ししてから行われた期末テストで私は初めて主席となりました。
本調子でない彼女に勝ってもあまり嬉しくはないのですが、初めて主席から転落したのです。彼女も落ち込んでいると思ったのですが、私が主席だと知った彼女の反応は「ふーん。よかったじゃん」と自身の結果などどうでもいいというようなものでした。
当然私は彼女に噛みつきましたが彼女は煩わしそうにするだけでした。学年主席となったことを両親に褒められましたが、褒められても嬉しくないというのはあの時が初めてでした。
勉強以外のものならと他のことで張り合おうとしましたが、彼女はすでに全ての習い事を辞めていました。今まで積み上げきたものを全て投げ捨てる彼女の行動を理解出来ませんでした。
彼女の行動に何か原因があるはずだと調べていると、最近になって関わるようになった男性がいることに気付きました。この方が原因かと思い、突撃しますが軽くあしらわれる始末。
再度出会った時には楠木さんの家から別の女性と出てきました。そのまま彼と会話していると楠木さんの家にお邪魔することになり、話をしてみると以前楠木さんが語っていたことは全て本当だと言うではありませんか。
信じたくなくて今まで目を逸らしてきました。だってしょうがないでしょう。認めてしまえば私が憧れた彼女は存在しないことになってしまうのですから。
楠木さんは両親が嫌いな事は理解しました。両親にいろいろ強制されていたことも理解しました。両親に褒めてもらえたことがないのも理解しました。
両親が好きで、自分から望んで、よく褒めてもらった私と楠木さんは反対なので彼女の気持ちは分かりません。
だけど私が憧れ、目標にしていた彼女も偽りだと言うなら私は今後何を目標にすればいいのでしょうか?
自分の悪癖だと理解しつつも感情のままに言葉をぶつけ、口論していると星宮さんという方に止められました。
頭を冷やす意味でも彼女と会話し、よせばいいのにまたしても思ったことを口にして彼女を怒らせてしまいました。
(ああ…またやってしまった…)
後悔しても一度口に出してしまった事実は変えれません。謝罪はしましたが、彼女達は私に不快感を抱いたでしょう。
ここにいる私以外の三人は今までに苦労してきたことは分かりました。彼女達と話していると自分がいかに恵まれていたかが分かります。そして価値観が違うことも。
そんな私が彼らと相互理解を深めようとするのは罪なのでしょうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます