世界一嫌いな三兄弟に教育的指導始めました!

秋花 犀

第1話始まりの電話

春らしい心地よい風を感じながらぼーっと外を眺めているのが至福の時である、私【音笠 麗 おとかされい】は同年代の子に比べ趣味がお年寄りくさい事は自覚済みだ。自分の生まれ持った性格もあるとは思うが仕事で忙しい両親に代わり、祖父母が面倒を見てくれていたおかげか趣味は将棋・ゴルフ・生け花など同年代の子とは話が全く合わないのが最近の悩みになっている。だからこそぼーっとしている時間が至福であり、今日は私以外家に居ないため縁側で気持ちよく寝そべっていた。


「ん~、はぁぁぁ、やっぱ一人でゆっくりするの最高っ。」


この頃は祖父母のどちらかは家に居たため何も気にせずゆっくりするのは久しぶりでついテンションが上がってしまう。祖父母や両親は優しいが礼儀やマナーに厳しく自分の部屋以外で寝っ転がったりするのは厳禁など様々なルールがある。こんなルールがある家は今時珍しいのかもしれないが、その理由は音笠家のルーツからなるものだろう。まぁ慣れてしまえば、どうってこともないけれど。一人ということで完全に気が緩んだ私は心地よい日差しのせいで睡魔に襲われ眠ってしまった。


Prrrr、、、Prrrr、、、Prrrr、、、、


心地よい眠りの中で無機質な機械音が微かに聞こえてきた。いったん気になると機械音が耳障りになり、まだ寝ていたいと起きることを拒否する重い体を起こし音が鳴っている方へ進む。うるさく鳴り響く正体は玄関に置かれた家庭用電話機だった。私は表示された電話口の相手を見て眠気が吹き飛び、代わりに寒気がやってきた。私の家のルールには家族からの電話は3コールで出なければならないというものもあり、表示された名前は私の母である【音笠 裕美子 おとかさゆみこ】。もう何コール鳴っているか分からない、確実に雷が落ちることを瞬時に察し震えながらも受話器を取る。どうか、お母さんが帰ってくるまで正座とか野菜まみれの食事とかになりませんように…。


「はっ、はい、音笠で」


「れ~い~、お母さんですけど。身内からの電話には何コールで出るのかしら?」


「あっ、お母様…。えっと、その、3コールになります。」


母の怒りのオーラに電話越しで負けてしまい返答する声が小さくなっていく。


「そうよね、小さい頃から教えてるでしょ!もうっ、おじいちゃん達が居ないからって油断しないの!」


「うっ、すみませんでした…。」


「はい、次からは気をつけなさいよ。麗もいつかは音笠家を背負っていくんだから。」


てっきり罰が下ると思っていただけに少し拍子抜けしていると、急に優しい声で母が話を振ってきた。


「それで電話した件なんだけど、、、寿々成の三兄弟が手に負えなくてねっ?

麗に寿々成の屋敷まで来てもらいたいんだけど…、ダメかしら?」


私は電話の内容を受け止めることが出来なかった。【寿々成 すずなり】というのは先祖代々事業を拡大し今や日本有数の財閥であり、私達音笠家は代々寿々成家に秘書として仕えてきた。寿々成家の人は尊敬出来る方ばかりだが、跡取りであり私の幼馴染でもある三兄弟だけはわがまま放題の曲者揃いで私がこの世の中で一番嫌いな人達だ。私からの反応がないことを心配したのか母が名前を何回も呼んでくる。


「れ~い~、ねぇ、れいったら聞こえてるの?」


「あっ、ごめん。三兄弟のことになると頭が拒否しちゃって。」


「まぁ、麗がそうなるのも仕方ないわよ。私だってあの三兄弟が寿々成家じゃなかったら引っ叩いてるわよ。」


「お母さん、一応雇い主の子供だからやっちゃだめだよ。でも今まではわがまま言ってても解決してたのにどうしたの?」


「やっちゃいそうだから麗に電話したのよ…。はぁぁ、あのわがまま三兄弟跡取り教育全員受けないって言いだして屋敷中パニックよ。」


「はぁぁぁぁぁ!?ウソでしょ、あのバカ兄弟!!」


「もう大きい声出さないの、それで今必死に説得してるのよ。現当主夫妻と会長夫妻が…。

そのせいで、おじいちゃん達も屋敷に来てるから現に麗一人だけでしょう?」


そう、私の祖父母と両親は会長夫妻と現当主夫妻の秘書として働いている。会長夫妻は少し前に隠居を始めたため祖父母は秘書という肩書ではなく友人として屋敷に行くことが本当に楽しそうで私は嬉しく思っていたからこそ、多くの人に迷惑をかけるような幼馴染に怒りが湧いてくる。


「お母さん、私お屋敷に行くよ。」


「えっ?まぁ来てくれるのは助かるけど、麗あの三兄弟のこと嫌いじゃない?大丈夫なの?」


「嫌いだけど流石に今回は色んな人に迷惑かけすぎだから…。それに私だから言えることもやれることもあるでしょ?」


「さすがお母さんの子だわ。断られたら3コールで出なかったことを引き合いに出そうと思ってたけどね!」


「ははは、やっぱりお母さんには勝てないよ。」


「当たり前でしょ!じゃあ、屋敷の門に人置いとくから着いたら名前伝えなさいよ~。」


「分かった。またあとでね。」


体感では10分程に感じた電話は30分もしており急いで準備を始める。普通に私服で向かってもいいが、一応音笠家の人間として屋敷に入るので通っている高校の制服を着ることにし、胸あたりまで伸びている黒髪をポニーテールでまとめる。本当に会うのは嫌だが、覚悟を決め家を出る。

この時はまだお屋敷に行ったことをあんなに後悔するとは思ってもいなかった。












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