第19話 魔王城攻略RTA

「という訳で、早速魔王城を攻略しようー」


 開口一番、スゥがそんな事を言った。

 言っている言葉も意味が不明だった。


「いや、ちょっと待って欲しいんだけど」

「なぁに~、勇者」

「……貴方、なに味方面しているの?」

「一応私は勇者の軍門に下ったつもりだよ~」

「えぇ……」


 そんな訳で、現在我らが勇者パーティーは総勢6人。

 うち二人は魔王軍出身である。

 3分の1が魔王軍出身か。

 ……本当にこれ、勇者パーティーなのかとつっこんではいけない。


「いやほんと、カナタ貴方この子、スゥ、だっけ? 何をしたのよ」

「再教育」

「いや、再教育て」

「再教育☆」

「☆じゃあるまいて」

「とにかく、スゥはお兄様、クロードに従順になったから、困ったらお兄様から命令して貰って」

「……まあ、それで魔王軍討伐までの道のりが短くなるのならばそれで良いけど」


 どうやらミナミは現実逃避をしたようだった。

 気持ちは分かる。


「さて、さて」と呟きながらスゥは【アイテムボックス】から棒状のものを取り出す。

 その先端にある赤いボタンをぽち、と押すと、何やら空中に青白い板が浮かび上がった。

 それを見てミナミは驚きの声を上げる。


「ほ、ホログラム……!?」

「ありゃ、分かるの勇者?」

「分かるもなにも、私の世界でも未来の技術の一つとして扱われていたものよ」

「ふーん、貴方の元々いた世界って遅れてるんだね」

「むしろこの世界の神州の技術がオーバーテクノロジーなだけな気がするわ……」

「ま、そんな事はどうでも良くて」


 スゥは手に持っていた棒をふりふりと振ってみせる。

 するとほろぐらむ? の表面が「ざざ」と揺れ、それから何やら風景が映し出される。

 それはどうやら空から見下ろしているような風景だった。

 真っ白な荒れ地。

 そしてその中央には真っ黒な建造物が生えていた。


「もしかして、これって」

「そう、魔王城」

「……一応聞いても良い? これってどんな風に撮ってるの?」

「人工衛星から撮ってる」

「じ、人工衛星……」


 何やらミナミが戦慄しているが、それはさておき俺達はごくりと唾を飲む。

 これが、魔王城。

 如何にも、魔王が住んでいそうな場所だ。

 ここに魔王軍と魔王軍幹部達が集まり、日夜人類を滅ぼすべくいろいろな悪だくみを行っているのだろうか?


「何て言うか、比較対象がないからサイズがどれほどあるのか分からないわね」

「そんな事もあろうかと、魔王城の近くにマッチ箱を置いておいたよぉ」

「小さ過ぎて比較にならないわよ。ていうかなんでマッチ箱? そもそもこの世界に存在しているの?」

「まあ、つまりはこれが私達が最終的に向かわなくてはならない場所なのですが」


 ふぉん、と。

 スゥは改めて棒を振って俺達に提案してくる。


「どうする? 一応こちらとしては、遠隔でここから攻撃する手段があるんだけど」

「……そんな事が出来るのですか?」

「うん、出来るよ聖女。こう言っちゃあなんだけど、魔王軍って徒党を組んではいるけど基本的にみんな他の魔族に裏切られる事を前提にしているからね。私もそのうちの一人で、だから念のために魔王城への攻撃手段を持っているんだ」

「そんなんでよく人類を滅ぼそうとしてますね、しかも若干成功していますし……」

「人類を滅ぼしたらそのまま魔族同士で戦争するつもりだよ、どいつもこいつも。ほら、敵の敵は味方って言うじゃない?」

「そんな事はどうでも良いじゃん!」


 そんな風に話を叩き切るのはニナ。

 如何にも悪い事考えてますみたいな笑顔をしながらスゥに言う。


「どうにせよ、魔王城を攻撃出来るならさっさとやってしまおうよ! それが成功してもしなくても、魔王軍に大打撃を与えられるならそれで良いんだし、ね」

「……それはニナの言う通りね」


 ミナミも渋々と言った風にニナに同調する。


「魔王軍は今もどこかで人類側に侵攻していると思います。それを妨害するためにも、攻撃はするべきだと思うわ」

「それで、良いの?」

「ええ」

「んじゃま、ぽちっとな」


 そんな軽い調子で彼女はもう一度赤いボタンを押した。

 どうやら攻撃を開始したらしい。

 俺達はしばらく固唾を飲みながら映像を見守る。


 ………………


 …………


 ……


「……ん? なにも起きな――」






 ゴッッッパッッッッ!!!!!!!!


 魔王城が粉々に砕け散った。

 否。

 

 画像を見ながら呆然とする俺達。

 ミナミは震える声で言う。


「ば、爆薬でも仕込んでいたの?」

「いやぁ、そんな事してたら鼻が利く犬連中にバレちゃうよ」

「じゃ、じゃあ一体……?」

「衛星軌道上に」


 スゥは天を指差しながら言う。


「数十トンくらいあるタングステンとかミスリル銀とかの合金の塊を撃ち出す攻撃衛星が浮かんでいて、常に魔王城にロックオンさせてたんだぁ」

「ま、漫画の世界の兵器じゃない……!?」

「ん? 空想上の兵器でしかなかったの?」


 改めて、スゥはのんびりとした口調でミナミに言う。


「遅れてるんだねぇ、貴方の世界の技術って」

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