Final Fight! VS魔王 エルフのお尻が世界を解放する時!

魔王ガルドバ! 恐怖の王と希望のレスラー! 今、最強の座をかけてぶつかり合う!

 魔王城。


 生命のほとんどが息絶えた今、魔国と言う名称も意味をなさない。治める民はなく、王が一人玉座に鎮座するだけの場所。


 それでもその場所を表現するなら、魔王城だろう。魔王ガルドバがいる場所。ここは魔国の中心。一夜にして堅牢な城を建築し、数多の魔物を力でねじ伏せて配下にする。そして軍を作り、各国へと派兵した。


 町ができたのはその後だ。兵士達が住む場所が必要と言う理由で住居を作り、そこから需要が発生して経済が生まれた。滅ぼした町から物品を奪い、物々交換から貨幣を扱う経済が生まれる。


 力こそすべて。力がある者が力なき者から奪い事を容認する国。それが魔国。争いは絶えず、心は荒み、生産など論外のコミューン。逃げる者は殺されるか強き者の奴隷となる。


 とても国として成り立つとは思えない在り方。統治ではなく支配ではなく、君臨。力ある者が力の象徴として存在し、それに倣うというコミューン。力に怯えるように魔物は集まり、それが効率のために組織化したという程度の存在。襲るべくは数百万の数の上に君臨したガルドバの力。


 力ある者こそ正義。それゆえにガルドバに戦いを挑んだものは多い。そしてそのほとんどがガルドバに触れることなくこの世から姿を消した。肉片が残ったものが1割と言ったほどの圧倒的な力。例外は四天王のピアニーとイギュリのみ。ヴェルニとデラギアは勝算を見いだせず様子見していた。


 いつしか魔王に挑む数は減り、ガルドバの君臨体制は確立した。ガルドバは軍略に力を入れる覇王として諸国に戦いに挑み、そこにいた重鎮や知識ある者に内政を任せるという体制で国を切り盛りしていた。


 能力があればどんな種族でも取り入れる。真に実力主義という見解も取れる。事実、シャングリラからピアニーを強引にスカウトし、ヴェルニやデラギアを四天王に敷くなどしていた。スマシャのような下賤なオークの言を聞き入れるなどからもその傾向はうかがえる。


 そしてその最たるが、今回の事変だ。実力ある存在以外を焼失させ、世界を作り替えられる力を与えた。世界を一度リセットし、強者を管理者に敷いて作り替えさせる。自らは世界に関らぬとばかりに城に籠っているという。


 長く伸ばした銀の髪。蒼白ともいえる肌の色。額からは魔物の出自を感じさせる角をはやし、紫色の服を着て玉座に座っている。手のひらにはガルドバが魔力で生み出した天球。これにより魔王はこの世界を全てを感知することができる。


 この世界にいる自分以外の6名が何をしているのか。どう世界を作り替えるのか。それを見ているようだ。一か所に集まって魔王城に近づいてきたが、途中で止まる。そして1名だけ魔王城内に入ってきた。


「貴様が魔王ガルドバか」


 入ってきた者の名は、ピーチタイフーン。


 イギュリに噛まれた傷跡は癒えた。失血も回復し、万全の態勢だ。リングコスチュームを身にまとい、ブーツで城の絨毯を踏みしめて魔王に迫る。


「貴様が噂のピーチタイフーンか。何用だ?」


 響き渡るのはガルドバのテーマソング。オーケストラのクライマックスの如く重厚で、そして絶望的な響き。神々の黄昏を思わせる終焉の調べ。


「知れたこと。貴様を倒す」


 ピーチタイフーンの宣戦布告。指さされたガルドバは一泊置いて問い返す。


「何故だ? 戦う理由はないはずだが」

「理由がないだと?」

「そうだ。貴様が求めていたのは魔国の開放。しかしその魔国は存在しない。世界は全てゼロになり、新しく作り直すことができる力を与えた。

 喪われた者たちはその力で作り直すことができる。魂を錬成し、肉体を作り上げ、街の再生も思うが儘だ。魔王オレと戦う理由がどこにある?」


 ガルドバは座ったまま問いかける。


 ピーチタイフーンをはじめとした【世界解放リベレーション】は、魔国の開放を目的としていた。力ですべてを支配する魔王を倒し、抑圧された人々を解放するために。


 しかしその開放する民はもういない。そもそも抑圧して居た国すらないのだ。魔王ガルドバがすべて消し去ったから。そしてピーチタイフーン達は創世の力を得て、世界を作り直させる力がある。


魔王オレはこの世界には関らぬ。惰弱な者が増えすぎて興味がなくなった。魔王オレの顔を伺い、怯えて生きる者ばかりだ。サソリの女王やいつぞやのオークは骨があったし、虎視眈々と狙う者もいるがごく少数だ。面白みがない」

「だから殺したと?」

「そうだ。だが魔王オレが与えた力があれば、新たな生命を作り出すことができる。何の不満がある?」

「不満だらけだ。彼らの魂は貴様に奪われたまま。仮に彼らに似せて命を創造しても、魂は別物だ」


 復活魔法には肉体と魂が必要になる。肉体がボロボロになりすぎてしまえば復活はできず、魂がなくてはその本人は蘇生しない。そしてその魂はガルドバが奪ってしまったのだ。


 仮に似た魂を作り出せたとしても、それは別人なのだ。


「当然だ。惰弱な生命に意味はない。魔王オレは強き者が作る強き世界を見たいのだ」

「彼らは強くなる。レスラーと言う希望を知ったからな」

「戯言だな。どのみち貴様が創造したほうが強くなることには変わりはない。魂を返してほしければ、魔王オレから奪うがいい」

「そうさせてもらおう。だがそれはあくまで目的の一つ。私が貴様と戦う真の理由は、別にある」


 ピーチタイフーンの言葉に、ほうと首をかしげるガルドバ。仲間の魂を返してほしい、と言うのは戦う理由ではないということか?


 確かに仲間の魂は大事だ。それは立派な戦う動機になる。だがそれは副次的な目的。それがなくともピーチタイフーンは魔王に挑んでいただろう。レスラーが戦いを挑む真の理由は、一つ。


「私の前に強者がいる。その強者を乗り越える。それだけだ!」


 それがレスラーの思考! それがレスラーの目的! それがレスラーの生き様!


 たとえ神のごとき力を得たとしても、レスラーが求めるのは常に最強! そして最強に至ったレスラーの目的は、その地位に恥じぬ戦いをすること! 戦え、戦え、戦え! 鍛錬によって鍛えられた筋肉が、骨が、血潮が、心が、強者との戦いを望んでいるのだ!


「正義でもなく、魔王オレへの怒りでもなく、単に強いから挑むとはな」

嘲笑わらうか、魔王」

「いや。だが問おう、ピーチタイフーン。貴様はこの戦いに何を見る?」

「最強への道。トップレスラーへ至るための道。それ以外に見るべきものはない!」

「純粋に戦いを望み、その姿に人は希望を見る。なるほどそれが根幹か。我武者羅がむしゃらに走り続ける姿についてきたということか」


 くっくっく、とガルドバは笑う。嘲笑ではなく、その在り方に興味を示した笑み。


 恐怖と力で君臨してきたガルドバ。希望と戦う姿で人を魅了したピーチタイフーン。その在り方はまるで逆。しかし、その根幹は力。恐怖させる力。希望を与える力。共に力を誇示することで多くの人の上に立ったのだ。


「いいだろう。貴様の望むままに戦ってやる。もっとも、魔王オレは貴様の戦いを知っている。だが貴様は魔王オレの戦いを知らぬだろう。それでは不公平だ」

「ピアニーとの戦いは聞いている。魔力による格闘技の代替、とみているが」

「間違いではない。しかし正解には遠い。魔王オレの戦闘スタイルは――魔法だ」


 言うと同時に魔力により空間を歪曲し、ピーチタイフーンの重心を崩す。巨人すら横転させるほどの歪曲を来たられた体幹でこらえるが、その隙にガルドバはピーチタイフーンに近づき、触れる。軽く肩を叩いた程度の、タッチ。


「地よ」


 その瞬間にピーチタイフーンにかかる負荷。彼女の周囲にかかる重力を増加させたのだ。300倍の重力負荷。50キロの体重が15トンになる。転んだだけでもその重さの衝撃が体を襲うのだ。


「ぐ、おおおおおお……!」


 必至に耐えるピーチタイフーン。しかしそこに追撃を加える魔王。


「天よ」


 指を鳴らすとピーチタイフーンの上空に黒い穴が開き、そこから赤く燃える隕石がピーチタイフーンに降り注ぐ! 衝突の威力は物質の質量と速度の二乗に比例する。握りこぶし程度の石でも、音速を超える速度で落ちれば鋼鉄すら貫くのだ! 増加した重力がさらに石の重量を増し、着弾と同時に爆発を起こす!


 天 地 爆 裂メガデス


 魔王城は爆発で瓦解し、衝撃波は世界中に広がる。大地は大きく歪み、吹き上がった土砂が雨に交じり、世界に変色した雨を降らせる。まさに天変地異。地形は変わり、天候は荒れ狂う。天と地が爆ぜたかのような一撃。


「あいさつ代わりの一撃だ。この程度で負けてくれるなよ、レスラー」

「確かに魔国の王にふさわしい先制パンチだ。いい戦いになりそうだ」


 爆発の中心で立ち尽くすピーチタイフーン。


 その瞳はまっすぐに、魔王ガルドバを見ていた。

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