プロローグ

力が支配する国、その名は魔国ガルドバ! 絶望の世界、希望はどこに?

「燃やせ燃やせ!」

「森の結界は破壊した! エルフの村を略奪だー!」

「抵抗するエルフは殺せ!」

「逃げる者は捕らえて奴隷にしろ!」


 魔国<ガルドバ>――王の名をそのまま国名とする国がある。


 魔王ガルドバはその圧倒的な力をもって立国と同時に周囲に侵略を開始する。最初は小さなシミだった国は、その領土を瞬く間に広げていく。燎原の火が野原を焼き尽くすように魔国は広がり、それ以上に人々の恐怖は伝播する。


 そして今、難攻不落と言われたエルフの森も魔国に飲み込まれた。有史以来破られたことのない迷いの森。踏み込んだものを永遠に捕らえるエルフを守る悠久の壁。それは魔王ガルドバの手により破壊され、その軍勢がエルフの村を蹂躙する。


 その報は、瞬く間に広がっていく。次は自分たちの番だ。魔国に負けた者たちは奴隷として一生陽の目を見ない。どうすれば許してもらえる? どうすれば助かる? ある国は同盟を組み、ある国は魔国に交渉を行った。ある国は果敢に挑み敗れ去り、ある国は守りに徹して歴史から消えた。


 あらゆる抵抗は無意味に終わった。圧倒的な魔物の力。圧倒的な魔物の数。人知を超えた魔物の肉体能力。常識を超えた魔物の作戦。妥協などない。容赦などない。進先に国があったから、滅ぼされる。


 伝説の勇者は現れない。聖なる剣は存在しない。善なる神は何も語らない。


 圧倒的な力と暴力。それを隠さない魔国。その存在は人々を絶望に追いやった。明日生きているかもわからない日々。いつなくなるかわからない日常。魔国におびえ、息もろくにできない生活。


 魔国の領土はもはや世界の八割を超える。力が法の魔国において、強さこそ正義。力が正義の魔国において、弱さこそ罪。そして最も強いとされる魔王による力の統治が敷かれていた。


 人類の希望は、潰えた――かに、見えた。


 小さな火種が、魔国に灯を生む。 

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