恐るべしドレインライフ! 一族最弱吸血鬼だったデラギアがすべてを奪う!

「デラギア、お前の持つ血魔スキルは『ドレインライフ』だ。

 その力を理解し、努々励むがいい」


 吸血鬼に生まれて100年。デラギアはその言葉に絶望した。百年生きた吸血鬼は、それぞれ血魔と呼ばれる固有能力に目覚める。一族の頂点ともいえる吸血鬼の真祖はそれぞれの血族にそれを告げるのだが、そこでデラギアに告げられたのがさっきの言葉だ。


「ドレインライフだと!? なんとも無意味な!」

「触れることで相手の力を奪える? そんなの牙を突き立て血を吸えばいいだけだ!」

「種族能力と血魔がかぶるとはな。相手を眷属にできない分、下位互換と言えよう!」

「デラギアは役立たずの血魔を得た! 吸血鬼一族の恥さらしだ!」


 そう。吸血鬼デラギアの得た血魔は吸血鬼ならだれもが持ちうる吸血能力の下位互換。触れた者から他人の精力を奪うというだけだ。吸血鬼なら力づくで噛みつき、血を吸えばいい話。


 デラギア本人もそのことに絶望した。他の吸血鬼は血で形成した結界で自分だけの特殊空間を形成したり、血で生み出した剣で時空を裂いたり、血で生み出した怪物で龍を殺したりしている。なのに自分は人一人殺すのに難儀するドレインライフだ。


 役立たずの烙印を押さえれたデラギアは冷遇された。血魔がモノを言う吸血鬼社会において、血魔が役に立たないということは致命的だ。吸血鬼は真祖を頂点とした家族社会。その中においてデラギアのヒエラルキーは最下層まで落ちた。後に生まれた吸血鬼にさえ馬鹿にされるようになる。


「おい。役立たずのデラギア」

「ドレインライフで反撃してみろよ?」

「はぁ、それが血魔? オレが血魔ってもんを教えてやるよ!」


 デラギアは罵られ、傷つけられ、そして絶望した。虐げられ、苦しみ、そして呪った。自分を虐げる吸血鬼を。共に嗤う吸血鬼を。助けようともしない家族を。自らに血魔を告げた真祖を。そのすべてを呪った。


「その力を理解し、努々励むがいい」


 思い出される真祖の言葉。何が理解だ。何が努々だ。こんな役立たずの能力の、何を理解しろと言うのか!


 その時だ。自らの血が激しく疼くのを感じていた。奪え、奪え、もっと奪え。そんな衝動が心の中から湧き上がってきた。でもどうやって? 自分より強い相手からどうやって奪うのだ? それができるなら、そうしてやる!


「――そうか。この血魔は」


 その瞬間、デラギアは自分の血魔の真価に気づいた。この能力は『生命吸収ドレインライフ』ではない。


「奪え」


 デラギアは吸血鬼の一人一人に向けて、そう告げる。


「『人生剥奪ドレインライフ』」


 人生ライフ。それはその存在が生まれてから死ぬまでの結果。どう生きて、どう活躍し、どう死に至ったか。そのすべて。デラギアはそれを奪う。意味を知らずに使えば生命力程度しか奪えないが、そのつもりがあるなら人生そのもの奪いとれる。


 それはそのものが持ちうる能力も含まれる。人生で得るはずだった栄光も、快楽も、伴侶も、何もかもが剥奪したデラギアのモノになるのだ。


 すべてを奪うまでに相手に抵抗されることもあるが、デラギアの血魔を役立たずと罵っていた吸血鬼達はそのことに気づかずに最後の一滴まで人生を奪われ、その存在ごと消滅した。そして未来に得るはずだったことすべてはデラギアが得ることになる。


 そうして自らを虐めてきた吸血鬼達の人生と血魔を得たデラギアは、その能力と権力をもって一族に復讐を始める。奪えば奪うほどデラギアの元に『人生』が集まる。そのものが得るはずだった地位や部下やコネ。協力者が増えればさらに人生剥奪ドレインライフは加速していく。


 そしてそれとともに多くの能力も得る。身体能力や魔力増幅。状態異常無効化。不意打ち無効。全属性反射。瞬間移動。残像形成。そして、


「そうか、デラギア。お前はそう理解したのか。……ならばそれもやむ無し」


 そして最後、真祖の人生を奪った。最後に無抵抗のままそう呟いて真祖は消え、『世界の時間を止め、自在に活動できる』という血魔を得る。


「この力があれば、ワタクシはこの世界を支配できる。魔王さえも、いつかは剥奪してその地位を得てさしあげましょう!」


 こうして魔国四天王にまで上り詰めたデラギア。魔国の王を剥奪せんと、虎視眈々と機会をうかがっている。


「――なるほど、それが貴様の過去エピソードか」

「ふん。何やら奇妙な技でワタクシの過去を暴いたようですね。いいでしょう。その能力もワタクシのモノにしましょうか」

「これはレスラーの能力。レスラーの心がなければ奪うことも理解することもできまい」

「何を不思議なことを。貴様は私に食われるだけの供物! 無様に敗北をさらし、余興として費える運命なんです。

 ――時よ!」


 デラギアが宣告すると同時、吸血鬼の血液が世界を侵食する。すべての音、すべての光、すべての分子が動かなくなる。一秒と一秒の狭間。あらゆる生物が感知できない世界が吸血鬼の血魔により生み出される。


 光ない中、デラギアは迷いなくピーチタイフーンの元にたどり着く。吸血鬼の優れた感覚がなければこの止まった時の中で動くことはできない。時間停止の真価は時間を止めることではなく、止まった時間を認識して動くことができるこの感覚なのだ。


「貴様は自分がいつ殴られたのかも気付かない」


 デラギアが拳を振るう。血魔により強化された肉体で、数十発の拳がピーチタイフーンの全身に叩き込まれる。そして――


「終わりですよ」


 止まった時が動き出す。ピーチタイフーンに止まった時間の間に受けた衝撃全てがベクトルとして叩き込まれた。その衝撃に吹き飛び、地面を転がる。言葉通り、一秒を奪い取りその間に相手を倒す。その名は、


 秒 殺タイム・ハント


「もう一度言いましょう。貴様はワタクシに食われるための供物。散りゆき絶望することしかできないのです。この圧倒的な力の前に!」

「七十九発か。たいした連打だ」


 嗤うデラギア。しかしその笑い声は起き上がるピーチタイフーンとその声で止まる。


「馬鹿な!? 貴様は殴られたことすら認識もないはず。防御も回避も許さない攻撃、しかも一打一打はミノタウロスすら超えるパワーだというのに! どうやって防御したのだ!?

 そうか。皮膚表面にコーティングする系の特殊能力。常時発動の防御能力を持っているということですね。それが分かれば――」

「違うな。そんな能力は持っていない」


 能力を見切ってしたり顔、というデラギアに首を横に振るピーチタイフーン。


「ならどうやってワタクシの攻撃を凌いだというのですか!? 行動する余裕すらなかったはずですのに!」

「凌いでなどいない。耐えたのだ!」

「た、耐えた?」

「その通り。貴様の打撃七十九発。そのすべてを防御せず受けて、耐えたのだ!」


 打たれた衝撃に耐えながら、ピーチタイフーンは腕を組んで言い放つ。


「なななななんですとぉぉぉぉぉぉ!? あの攻撃を避けもせず受けもせず、まともに食らって耐えたですってぇ!?

 そんなバカなことがあるものですか! 砦の壁すら砕く攻撃を何度も食らい、耐えて立ち上がるなどとそんなことできるはずが――」

「鍛えているからな。それができるのが、レスラーだ!」


 慌てふためくデラギアに、迷うことなく答えるピーチタイフーン。鍛錬は全てを凌駕する。そのことに何の疑いも持っていない声だ。


「どうした。今ので終わりか?」

「くっ! しかし耐えたというからには多少なりともダメージは負ったはず。もう一度時を止めて今度は念入りに殴り続ければいい!

 ――時よ!」

「させない!」


 時を止めるデラギア。それを止めようとピーチタイフーンはヒップアタックを繰り出すが、時間停止のほうが早い。止まった時の中、デラギアはこぶしを構え――


「くごああああ!?」


 構えた瞬間、ピーチタイフーンが動き出す。そのままピーチタイフーンのお尻に腹部を撃たれ、吹き飛ばされる。地面を転がり、理解不能という顔で何とか起き上がる。


「時間停止を強制解除しただと!? ありえない。止まった時間の中で解呪を実行するなど! そんなそぶりはなかったのに!」

「お前が作った時間停止空間。それを私の一撃で砕いた!」

「物理的な攻撃で時間という概念に作用する血魔を打ち砕いただと!? 二千八百七十九枚の虚数歯車構造を理解し、八次元魔方陣により強化された世界そのものにかけた血の磔を、砕いたというのか!

 馬鹿な、そんなことができるはずがない!」

「レスラーに不可能はない! ピーチタイフーンのヒップは無敵だ!」


 理解できない、と言う顔をするデラギア。しかし目の前のエルフがそれを為したのは、まぎれもない事実だ。そこから目を逸らすことはできない。


「さあ、覚悟しろデラギア! 貴様を打ち砕き、仲間をすべて開放する!」

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