第30話 魔法少女に襲われました

( なんてこった… )


転移魔法でヒミカ城から逃がしてもらい、城から少し離れたジャホン国の町のど真ん中に転移した俺だったが、


移って早々に敵と出会でくわした。


ていうか、敵の前に俺が現れた。


(ツイてないにも程がある!!)


焦りを表に出さず、内心では頭を抱える俺。



「ふぁわわ、り、リオンが来たよ! どうしよう、私一人じゃ倒せないよ!」


そして、ちゃんと頭を抱えて困っている【魔導士 メイラ】。


(あわわ、どうしよう!?)


片や、白目を向いて頭がパニックっている俺。


「ふぁわわ、どうしよう!?」


片や、杖にしがみついてオロオロしているメイラ。


敵同士向かい合うも、何も起きる筈もなく。お互いに、ただ慌てふためくだけ。


(えっと…)


カラカサを抱きかかえたまま突っ立っていると、


「かはぁっ…、リオン様!」


苦しそうな男の声で、呼ばれた。


声のした方を見ると、


(あっ! 家老達!)


イシダを除いた、残りの家老三人が傷だらけで倒れていた。


(そういえば、ずっと姿を見てないと思ったらここにいたのか!)


家老達に駆け寄って見ると、家老達の傷は思ってよりも酷く、皆ぼろぼろであった。


メイラに気を取られて気づかなかったが、周りを見渡すと、


民家等の建物は壊され、ここで激しい戦いがあった事を物語っていた。


「家老達、大丈夫か!? てか、生きてるか!?」


「リオン様…ぐっ、お気をつけください。 奴はかなりの手練れ!」


「幼い見た目に惑わされぬように…。 奴は、少女の皮を被った大魔導士です」


「油断なさらずに…っ、奴とは、本気で倒すつもりで戦わなければなりませぬ!」


三人とも起き上がれずに、這いつくばったまま俺に注意喚起する。


(奴…、奴というのは)


この場で一人しか該当しないその少女に目を向ける。


「ふぁっ!こっち見てるよ! ヘレナさん、早く来ないかなー」


俺から目を逸らして、辺りをキョロキョロするメイラ。


(まあ、油断も何も…。あの子が相当強いのは、モニターで見て知っている。 そうでなくても、俺がどうにかできる相手じゃないしな。)


とりあえず、家老達を連れて安全な場所に避難しよう。


そのためにも、まずは何とかメイラとの戦いを回避せねば。


(相手は、リオンにびびってる。 いつも通りリオンの演技をして、うまく事を運ぼう。)


カラカサを家老達の傍に置く。


何か生き物を抱えてると、リオンの怖さが半減する気がするので。


そして俺は顔面の筋肉を引き締め、眉間にしわを寄せて凄みのある顔を作る。


聞こえないように喉を小さく鳴らした後、低い声で厳かに語りかける。


「…魔導士の少女よ、お前一人ではこの俺は倒せん。命を粗末にしたくなければ、俺の前から早々に立ち去─」



「あっはい、こちらメイラです。はい、今大丈夫です。」


突如、顔の前に出現したの小さな魔法円と会話を始めたメイラ。


(って、聞けよ!! 今、大丈夫じゃないだろ!)


目の前に、魔王軍幹部リオンさんがいるんだぞ?


「…えっと、はい。 あっ、はい。今、一緒にいます。」


なおも、通話を続けるメイラ。


(小娘が、なめやがって~! 通話終わったら、ビビらせちゃるぅ!)


と考えていると、


『今そこにいるリオンは、魔力が使えないくらい弱ってるぞ!』


(この声、イシダ!?)


ついさっきまで聞いていた知った声が、耳に届く。


『激しい戦いの中、この俺がッ! うまく隙を突いて弱らせたんだ! だから、今のリオンは簡単に倒せるぞ!』


(お前の力で弱くなったんじゃないわい!元から弱いんじゃ!)


ああ…心の中で反論して悲しくなってきた。


「…そうですか。わかりました。」


『そっちで倒したとしても、俺の活躍のおかげだからな! その事を他の人達にちゃんと言っ─』


─ブッ


イシダがまだ何か言っていたようだが、気にも留めずに魔法円を消して通話を終えるメイラ。


そして、先程までのオロオロした様子とうって変わって落ち着いた様子で俺を見据える。


(む、なんだ? や、やる気か!?)


さっきまで俺にびびっていた少女の雰囲気ががらりと変わって、戸惑ってしまう。


背中を冷や汗が伝う。


(このまま戦う展開だけは何としても避けたい! もう一度凄んでみるか。)


「…魔導士の小娘よ。 イシダから何か吹き込まれた様だが、そんなデタラメな情報を信じて俺と戦う気か? 悪い事は言わん。 俺の気が変わらん内にとっとと─」



「【形無き形を作りて敵を撃て『虚空の息吹』】!」



(ぐはぁっっ!!?)


杖の頭を向けられたかと思うと、突如見えない塊が俺の腹を撃つ。


その衝撃で俺の体は大きく後ろへと吹っ飛び、


ボロボロになった民家の引き戸へと背中を打って、戸ごと家の奥へと転がっていった。


(かはっ、はあ…、痛ぇ!苦しい! )


この世界に来て初めて魔法攻撃をもろに受けた俺は、一瞬だけ呼吸が止まり、仰向けで倒れたまま痛みで悶絶する。


(これが攻撃魔法か…マジで、痛ぇっ! てか、虚空の息吹って何さ!?)



~『虚空の息吹』とは~


〈空気に魔力を込めて圧縮させ、砲弾の様にして敵を撃つ風魔法である。〉…らしい。


─リオン・アウローラの記憶より引用



(めちゃくちゃ硬い空気砲みたいなもんか…。真っ直ぐに飛んできた砲丸に当たったかと思ったぞ!)


実際、真っ直ぐに飛んで来る砲丸に当たった事は無いんだが、そんな感じの威力だった。


このまま倒れていたら危ないので、腹に痛みを残しながらもなんとか起き上がろうとしてみる。


(これ絶対に骨折れただろ。粉砕骨折だ、もう動けそうにない……ってあれ?)


悶絶する程の激痛が、急激に退いていく。


痛みが和らいだ事で起き上がれた俺は、そのままその場に立った。


(体の痛みがほとんど無い。…これはもしかして、魔族特有の回復力なのか?)


魔族は人間よりも身体的な力が強く、さらに驚く程に丈夫らしい。


痛みが早い時間で退いていくこの驚異的な回復力は、魔族が元々持っている身体能力なのだろう。


(あんなに痛かったのに、もう普通に動けるぞ。 魔族の体、すげえ!)


外に出ると、俺を攻撃した魔法少女が眠そうな顔して待っていた。


「さすが高位の魔族だね。岩をも砕く程の高レベルの威力を持つこの風魔法を、まともに受けてまだ生きてるんだから。」


(…魔族の体、まじすげえ。)


「ふぁ~っ…」


小さく欠伸したメイラが、再び杖を俺に向ける。


「だけど、今ので確信したよ。 東の国の間者さんが言っていた通り、今のリオンは弱っている。」


「…ふん、何をバカな事を。一撃入れただけで図に乗るんじゃ─」


「今の攻撃に対して、反撃や防御の魔法を使おうとした動きはなかったし、何よりもあのリオンがあんな簡単に攻撃を受けて吹っ飛ぶはずがない。」


「ぐぅっ…!」


完璧な推察に、ぐぅの音しか出ない。



メイラの杖が光り出し、俺の周囲に魔法円が浮かび上がる。


(今度は、何する気だ!?)


「【光よ、魔を捕らえる枷となれ!『束縛する光鎖』】!」


周囲に浮かび上がった魔法円から光の鎖が飛び出し、俺を縛り上げる。


「グワァェッ!!」


容赦なくきつく縛られたため、首を絞めつけられたアヒルの様な声を出してしまった。


絶対に逃がさんとするように、さらに光の鎖が強く締め付けて来る。


「ぐ、ぐげげぇ~…」


俺は苦しさのあまり、もはや何の声かもわからないような声を出してしまう。


「リ、リオン様…」


「そ、そんなっ!あの終焉の王と言われた最強の魔族が!」


「こんなあっさり拘束され、挙句に踏みつぶされた蛙みたいな声をだすなんて!?」


俺の無様なやられっぷりに、家老達が信じられないようなもの見ているという反応を通り越して、引いている。


「シャウウ~…」


カラカサにまで心配されてしまった。


(く、ぐそぉ……ぐるじぃ…)


「まさか、散々私達人間軍を恐怖のどん底に落とし入れてきたあのリオン・アウローラを、こんな簡単に倒すことになるなんて。びっくりだよ。」


もがく事も出来ずに縛られているだけの俺を、メイラが杖を向けたまま静かに見る。


「そして、なんだか…情けないね。」


落胆した表情を一瞬見せるメイラ。


(ぐっそう~、俺に魔力があれば)


ピンチの度に何とか魔法が使えればとリオンの記憶を覗いた時、戦闘の記憶の中でわずかに見えたリオンの魔法。


(リオンのが使えれば…)



「ヘレナさんは、自分の手でリオンを倒したかったんだろうけど、こんなチャンスはもうない。ここで私が、確実にリオンの息の根を止めるよ!」


(や、やばい!早く何とかこの鎖から抜け出さないと!)


無理やりにでももがいて脱出を図る。


決して逃がしはしないとするメイラは、


「【雷よ、迅く走る槍となれ『雷神槍』! 】」


空中に数本の雷の槍を出現させて、俺にその矛先を向ける。


(や、やばばばばばば)


「さよならだね、終焉の王リオンアウローラ!」


(うわああああ! 俺、異世界で魔法少女に倒されて人生終わってしまうんかー!?)




—ドオンッ ドオンッ ドオンッ ドオンッ


突如鳴り響いた数発の発砲音と同時に、雷の槍が砕かれた。


(なぬっ!?)


「ふぁっ!? —んっ!」


一瞬驚く様子を見せるも、メイラはすぐに上下左右に自分を守る魔法円の『盾』を出現させる。


ドオンッ ドオンッ


という発砲音が響き、何かがメイラの魔法円に当たって弾かれる。


(なんだ…?どこから)


「動くなよ!リオンさん!」


(え?)


声の方を見ると、


刀を持ったはかま姿の男が、物陰から現れる。


「ぜあああああっ!」


男は気合とともにすれ違い様に刀を振り、俺を束縛していた光の鎖を断ち切った。


(おおっ!?)


「わっはっはっ、相変わらず大変な目に合ってるの~、おんしは。大丈夫じゃったか?」


男は、俺に大きな背中を向けて語り掛ける。


(あ、ああっ!)


現れたのは、


右手に刀と左手にリボルバー拳銃を持ったジャホン国海軍指揮官である—


(サ、サクタロウ!!)


生きとったんか、お前!


サクタロウはその大きな背中ごと振り向いて、いつもの人の良さそうな顔でニカッと笑いかける。


「助けに来たぜよ!リオンさん。」



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