第4話 幹部会議

 議長の宣言により、魔王軍幹部会議が始まった。


 俺のミッションは、ここにいる連中に魔王軍幹部の一人、【リオン・アウローラ】の中身が別人だとバレないようにすること。


 俺は リオン・アウローラを演じて、無事にこの会議を乗り切らなければならないのである。



「まずは、戦況を報告してくれ。 君達の現状を知りたい。」


 議長である白銀の鎧を身に付けた女性が、出席者全員に語りかける。


「リオン、お前はどうだ。 何か変わったことはないか?」


(――っ!)


 さっそくきた。

 

 いきなり確信を突かれた様な質問だったためびっくりしてしまった。


(戦況じゃなく…近況なら、死にかけて中身が変わりました。)


…と言うわけにはいかない。変化を悟られず、何事もなかった事にせねば。


 緊張を隠すため、胸の前で腕を組んでみた。


 腕組みの格好が妙にしっくりくる様な気がする。おそらく、この体に染み付いた癖なのだろう。


「…俺の方は何も問題はない。 いつも通りだ。」


 どういうのがいつも通りなのか知らんが、議長の質問になんとか落ちついて応える事が出来た。


(実際リオンが今まで何をしていたか知らないのだが。後でリオンの記憶を見るかクロエからうまく聞き出すか。)


「そうか。 他のみんなはどうだ?」


 他の出席者に報告を促す議長。


「俺の方はもちろん順調だ! 我が軍団はすぐに南の国を占領するだろう! ガハハハッ!」


(図体でかいし、声もでかい)


 室内に木霊する程の大きな声で話す大男。


 名は、【フレイムル 】

 

 燃える様な赤髪に、二メートルを越す身長と岩の様な筋肉質の巨躯を持つ。


(幹部連中では一番厳つい見た目の奴だな…。)


 豪快な笑い方も、その厳つい見た目には似合っていた。



「…そうですね。」


 ―クイッ


「現在、我ら魔王軍は世界各地を進行し、着々と人間軍を追い詰めています。」


 —クイッ


 眼鏡のブリッジに指先をあてて位置を修正しつつ報告する男性の名は【グラキルス】


 涼しい顔立ちの男性で、魔王軍一の知能派であり、作戦参謀としての役割を持つ。


「我々魔王軍が人間軍を殲滅し、」


 ―クイッ


「世界を手にする日は、」


 ―クイッ


「近いでしょう。」キリッ


 ―クイッ


(眼鏡クイッしすぎだろ! )


 眼鏡のサイズが合ってないんじゃないか?


 クイッ クイッ クイックイックイックイッ


 …話し終わってもめっちゃ眼鏡クイッしてるし。



「私もお変わりはなく。 侵略した東の島国を統治し、魔族に従順な人間達をしっかり飼い慣らしていますわ。」


 ふふっ…と袖で口を隠して小さく笑う和服の女性。


 侵略だの従順だの飼い慣らすだの、物騒なことを言ってる和服の女性の名は【ヒミカ】


 物腰が柔らかく穏やかな性格の美人で、幹部の中では一番まともそうな印象だったが、


(案外、…怖い奴なのかもしれないな)



「ん~、私も変わりはないかな~。いつも楽しく遊んでるよ☆」


 えへへ と明るい笑顔でそう話す黒いドレスの少女 【メリア】


 まるで、学校のお友達と遊んだ話をする普通の少女の様だ。


( 可愛らしい子じゃないか。 見てるだけで和むな~。)


「この前もね、○しに来た西国の騎士さんたちをみんな串刺しにしたの~。 それをお城の前に置いたら、みんなおとなしくなって、誰も遊んでくれなくなっちゃった。てへ☆」


(こっわっ!! )


 何この子、 恐ろしい子だわ!


 リオンの記憶にも『要警戒人物』で覚えられてるし、気を付けよう。



「私は、北の王国の連中とドンパチやってたよ。まあ、向こうが立てこもってつまんねぇから、会議に出向いたわけだ。」


 退屈そうに椅子を背中で揺らしながら、そう話す軍服の女性。


 名は、【イザベラ】


 『軍神』とまで称される戦いの天才である。


 本人も戦う事が好きで、魔王軍の一つの軍団の将でありながら、前線に立って戦闘に参加するほどだとか。


 ちなみに、部下からは「姉御」と呼ばれているらしい。



「クケケ…、僕も相変わらず。 城にこもって研究していたよ。 」


 不気味に笑う クケケさん、もとい【ネヴァ】


 主に魔王軍の後方支援に務め、常に何かの研究をしているらしい。



「ふむ、どうやら何も心配はなさそうだな。各自己の使命に従事してる様で何よりだ。」


 幹部達の報告を満足そうに聞く議長席に座る女性。


 鎧を纏ったその女性の名は、【クレア】


 魔王軍幹部をまとめる存在であり、魔王を除けば、魔王軍最強の魔族である。



 幹部達の席は、長いテーブルの上座に議長であるクレア、そこから左右に四席ずつ。


 各々が座る席は、議長席から見て右の列が


 リオン(俺)、 イザベラ、 メリア、 ヒミカ


 左の列が


 欠席、ネヴァ、グラキルス、フレイムル


 となっている。


 俺はクレアとイザベラの間に座る形になるが、

 

 二人ともかなりの美人である。


 そんな美人二人の間に座っている俺は緊張して心臓はドキドキ…


 と同時に、


 そんな二人の放つ、強者の圧に当てられてる俺は緊張して胃はキリキリしている。


(会議 早く終わってくれないかな…)


 緊張しっぱなしで、吐きそうだ。


 会議は始まったばかりであるが、今のところ俺が怪しまれる事は無く進んでいる。


(このまま何事も無く閉会になればいいのだが。)


 と思っていると、


「…ところでフレイムルさん、イザベラさん。 貴方達はこの前の戦い、何故私の作戦通りにしなかったのですか?」


 グラキルスが二人を名指しして問いかける。


「ふん、 お前の作戦が気に入らなかったからだ。」


「…何?」


 フレイムルの率直な返答に、どういう事かと視線を投げかけるグラキルス。


「私も同じだ。 お前の作戦が気に入らなかった。 あれは、部下の命を軽視し過ぎてる。」


 イザベラの鋭い視線がグラキルスへ向けられる。


「そうだ。 俺の手下達を囮に使うだの、ふざけやがって!」


「私の部下もな。」


「…ふっ、なるほど。そういう事ですか。」


 呆れたと言わんばかりに小馬鹿にした笑みを見せるグラキルス。


 どうやら作戦参謀グラキルスの作戦を巡って意見の相違があったらしい。


 フレイムルとイザベラの二人とグラキルスの鋭い視線がぶつかり、険悪な雰囲気になっていく。


(なんか、やばそうだな…)




































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