第2話 魔族になりました

 目を開けると、目の前にさっきまで俺がいた魔方陣と周りの木々が見えた。


 自分の手を見て動かす。


「本当に他の体に入ったのか。すごいな」


(どうやら、うまくいった様だな。)


「うお!? 頭の中に声が!」


 まだ起きてたのか!


(まだ少し時間があるから、これからのことを話す。)


「…おう。」


(先程言った様に、俺は力を使い果たした。 今の俺は弱体化している。 それを悟られるな。当然、ここで俺が死にかけていたことも、中身をお前と入れかわったこともだ。)


「わ、わかった。 …ちなみに、バレるとどうなるの?」


(俺は魔族で魔王軍の幹部だ。そして、今魔族と人間は戦争の真っ只中だ。 俺の首を狙っている者は多い。 )


 人間と戦争中って…、俺はこれから人間の敵になるってことか。


 いや、元の世界に帰るためだ。 他の世界の事情など知らん。


「てことは、人間に気をつければいいんだな。」


(いや、そうとは限らない。 魔王軍も一枚岩じゃない。 幹部の中には他の奴を蹴落とそうする奴もいる。 幹部の椅子を狙う奴もいるだろう。)


「…大変だな。」


 まあ、魔王軍の幹部っていうんだから、この体はすごい力を持ってるのだろうし、なんとかだろう。


 …いや、ちょっと待て。そういえば力を使い果たしたって…


「つまり、俺はそんな敵だらけの中、力のない状態で過ごせと!? ちょっと、聞いてないよ~」


(ふん、バレなければ問題ない。 俺も幹部の中では上位の地位だ。迂闊に、戦いを挑むものはいないはずだ。)


「ほ、本当にだろうな?」


(それに時が経てば力…、つまり魔力は少しずつ戻る。案ずるな。)


「そ、そうなのか?」


(その内、俺の記憶も見ることができる様になる。最初は僅かな情報しか見えないか       も知れないが、徐々にたくさんの事を知るだろう。魔力の使い方もそれでわかるし、強力な力を使うことが出来る様になる。)


 おぉ、なんかなんとかなる気がしてきた!


(…時間がない。 最後に、伝える事がある。常に冷静でいろ。 何があろうと動じることなく堂々としろ。)


「それは、お前のふりをするのに大事なことなんだな。」


 確かにそんな感じだもんな。こいつ。


(『常に構えず自然体で構えろ』 それが俺のモットーだ。)


 武術の達人かよ。


 なんか難しいキャラ設定だな…


(… 突然呼びだして、俺の都合に付き合わせてしまった。 …すまない。)


 ーーッ!


 いきなり殊勝な態度になりやがって、少しドキっとしたじゃないか!


「お、おう。 気にすんな。 後は、俺に任せて寝てろ!」


(…ふん、頼んだぞ。)


 それからリオンの声は聞こえなくなった。



 さてと、リオンの記憶を見てみる。


 知り合いの顔と名前、魔王城など、生活をするのに困らない程度の情報は見る事ができる。


 奴が何故瀕死の状態でここにいたのかは、その経緯はまだ見る事は出来ないようだが。


 さて、しばらくは知り合いに会わない様にしなくちゃな。


 後、人間にも。


 …と、考えていたところ、


 ―ガサガサッ


「あぁ! リオン様、探しましたよ!」


 後ろの草むらから一人の女性が現れた。


 俺は記憶の中から女性の情報を探す。


(…魔族の人か。)


 名前は、クロエ。 リオンの部下らしい。


 クロエは、長袖とロングスカートの上下黒い服に、大きな丸眼鏡をかけ、その背には黒い翼がある。


「よかった~! いきなりふらっと、どこかに行ってなかなか帰ってこないんですもん!」


「…お、おぅ。」


 いかん、早速動揺してしまった。落ち付け、冷静にだ。


「魔王城に帰りますよ!さあ、さあ。」


「う、うぬ! そうしよう。」


「?」


 クロエは首を傾げてる。 今の言い方はリオンぽくなかったようだ。


(…なるべくしゃべらない方がいいかな。)


 ぼろが出る前に、魔王城に着いたらすぐにクロエと別れて、誰にも会わない様に自室に引きこもろう。


「では行くぞ、クロエ! 魔王城へ!」


「…なんでそんなに気合い入ってるんですか?」


「は、早く帰りたくてな。 疲れてるから、休みたいんだ。」


「はあ…。そうですか。」


 若干訝しんでるが、まだバレてはいない様だ 。


「でも、リオン様。お疲れのところ残念ですが、この後すぐ、幹部会議がありますので。」


「………………へ?」


 なん…だと…


 誰にも会いたくないっていうのに!


「世界中に散らばった最強の魔族達が一堂に会しますから、ドキドキしますね~!」


(なんだってー!?)


 最強の魔族…


(別の意味でドキドキするわ!)


「もう、リオン様。そもそも私達はそのために、戦場から魔王城に向かってたんじゃないですか~」


(なんだとおおおおおおおお!?)


 リオン様、そういう事は言ってくださいよ!


 背筋に冷や汗が伝う。


 まずい展開だ…


「では、行きましょう。リオン様!」


「お、おう…い、行くぞ…。」


 俺は動揺を悟られない様に、無表情に応えるしかなかった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る