【そのじゅういち】 - ひとつの真実

久しぶりに祖父の夢を見た。


寝入り端に彼の頰や髭に触れたからだろうか。


幼き日の情景がぼんやりと頭の中を揺蕩たゆたっていた。


ーーーーー

祖父の膝に座り腕に抱かれる。


私は、まるで愛しい恋人にでも触れるように祖父の頰と髭を撫でる。


甘く幸せな時間。


膝の中の私が次第に今の私の姿に変わっていき、月明かりの差し込むベッドにひとり座る私を、白く光る祖父が優しく眺めている。


その柔らかい眼差しは、私にたったひとつの真実を伝えたがっていた。



『愛し愛されることを祝福しなさい』


祖父が瞳で語る。



私たちは、愛しい人を失う悲しみを知るためではなく、愛し愛される存在を心から感じ、互いの肌に触れ合う幸せを知るために今世で出逢ったのだ。



あゝ、そうだった。


私は祖父に愛されていた。


そして、私も…わずか2歳の幼き時から人を愛する喜びを知っていたのだ。



寡黙な祖父は冷たい人なのではなく愛に不器用な人。


私は愛しい人と引き裂かれる運命を生きるのではなく、愛し愛される喜びを感じるためにこの世に生まれてきた。


そして、人を許すことに拙劣せつれつさを感じ、苦しむ父や母の元で育つことで学びを得ていたのだ。



夢の中で私に絡みついていた鎖が光の粒子となり闇夜に溶けていく。



薄れゆく意識の中で、私は祖父に問いかける。


おじいちゃん…おじいちゃん…私……幸せになっても…いいかな?

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