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 当然の事だが、生まれた時から水越季人は未知に魅了されていたわけではなかった。


 普通というのをどのラインに定義するかは個人差があるが、季人は普通の一般家庭に生まれ、普通に教養を受け、何不自由無く成長していった。


 季人自身、思い返してみても何がきっかけだったのかは覚えていない。


 特別、不可思議な出来事と遭遇したわけでも、運命的な出会いがあったわけでもない。


 もしかしたら、最初は恐竜図鑑や、子供向け番組といった誰もが一度は目を通すようなものが切っ掛けだったのかもしれない。 


 歪みの始まりと言えばそれまでだが、いつの頃からだったか、季人は非現実、非実在に対して人並み以上の興奮を覚えるようになっていった。


 それは別段、特別な事ではない。 冒険家や蒐集家、挑戦者でさえ、結局のところ独自の世界観で世界を見ているのだから、季人の場合も単なるフィクション好きなマニアと一括りにしてしまえば他となんらそん色はない。 響きからしたら、前者よりもより一般人に近い位置にいるといえるだろう。 


 「……」


 向かい風を受けながら道路の白線の上を走りつつ、季人は自らを省みるなどという柄にもない事をしていた。


 走馬灯を見るような出来事がこれから起こるのか。 自分は今、それを前倒しで見ているのか……。


 そんな縁起でもない事を振り返りながら、季人はロードバイクのペダルをこぎ続けた。



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