第3話
吾輩は犬になった。三話
珍しくアラームの音ではなく太陽の光で目が覚めた。
初めての登校日だから体が起きたがっていたのかもしれない。案外楽しみだったみたいだ。
「お、やっと起きたか間抜けツラ」
「陽の光で目覚めがいいと思ったのに早速お前か…エサやらないぞ! 」
「お前の母親が用意してくれるから大丈夫だ心配するな」
「してない。すっきり起きたかったのに台無しだよ…」
一日一回嫌味を言わないと死ぬ呪いでも掛けられているのか?
そうだったら犯人探す前に呪いかけた奴を先に探す方が正解だな。
渋々ベッドから起きて階段を降り、洗面台に向かい、顔を洗う。
右目は奥二重、左目はパッチリの二重と、形のいい眉毛。洗い終わって顔を上げた。
自分の中で1番のチャームポイントと思う三白眼と目が合う。おそらく他の人よりも結構整ってる顔なんだろうなと自負している。
なんせ父も母も顔面偏差値がとても高いのだ、うまく遺伝成功してよかった。この顔に感謝する。
もう一度部屋に戻ってきたら、つむぐは居なかったので多分リビングに行って先にご飯食べてるんだろうな。
ハンガーに掛かっている制服を手に取り少しワクワクしながら着て見た。
生地がしっかりしていて初めは動きづらそうだな…。
肩とかあげるの苦戦しそう。
まぁ、そんなどうでもいい事は頭から放り出して改めて姿見を確認していた。
白いブレザー。群青色のネクタイ。琥珀色に輝くボタン。
中学の時から今まで学ランだった僕は何もかもが新鮮だった。
今日から僕は新しい学校で、教室で勉学に勤しむのだ。…勉学に関してはあまり自信はないけど。
慣れない手つきでネクタイを結ぶ。早くネクタイに慣れないとな…。
髪を整え制服に着替えた僕はリビングに向かった。
「おはよう、二人とも」
僕は母と父に朝の挨拶をしてダイニングテーブルの椅子に腰を下ろした。
「おはよう、今日は早いのね。ご飯食べるよね?お茶用意するから待ってて」
「さては新しい学校が楽しみで早く起きてしまったのか?」
「う、うるさいな!」
後ろでつむぐのニヤニヤした顔がすぐに浮かんだ。絶対そんな顔してるし思ってる。そしてそれを馬鹿にしてるんだ。
あいつと仲良くなれる時はくるのだろうか。それこそ僕も死んで生まれ変わらないとダメかもしれない。
つむぐみたいに性格も引き継がれるようだったら嫌だけど。
ふう、と溜息を吐くと母がお茶を持ってきてくれた。
御礼を言って一口含み喉に通す。やっぱり緑茶は美味しいな。
今日の朝ごはんはだし巻き卵にウィンナー、そしてお味噌汁。シンプルで美味しそうだ。
いただきますと言って手を合わせご飯を口へと運ぶ。美味しい。
「そういえば、昨日はつむぐと一緒に寝たのね。すっかり仲良くなちゃって! 」
「仲良くない!勝手に入ってきたから仕方なく寝てやったんだ」
「そう言うのを世間では仲がいいと言うんだよ、渉」
全く母さんも父さんも好き放題言いやがって…。
もう一緒に寝てやんないからな!…でも夜は話して結局そのまま就寝だから、仕方ない、妥協してやるか。
僕は食事を済ませ身支度を整える。
寝癖も大丈夫だし制服もちゃんと着れている。持っていくものもちゃんと鞄に入れたし…。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい!気をつけてね! 」
「一人称は大事だからな〜 」
二人の返事にコクンと頷き、リビングのドアを開けて玄関に腰を下ろして靴紐を結んだ。
うまく自己紹介出来るだろうかと不安を抱きながらも、期待の方を抱きなおした。
朝が冷えるようになってきたなぁ。早くも冬の風の匂いがする…それは流石に早いか?
学校までの道のりは車の中で覚えてきた(車で道のりまでシュミレーションしてもらった)のでおそらく迷子になることは無いだろう。そう信じたい。
風の匂いを五感で感じながら靴を鳴らして階段を降りた。
いくつか曲がれば大通りに出て、そこからまっすぐ行けばバス停があって、学校までいけるらしい。
今まで歩きだったからバスなんて乗るのは初めてだ。少し緊張する。
果たして、僕は無事にバスまで乗ることができた。ふん、慣れればどうってことないじゃないか。
バス内を見てみると僕と同じ制服をきた生徒が何人かいる。不安はもう無くなっていた。
学校前でバスは止まってゾロゾロと降りていく人たちに紛れ込んで僕も降りた。
少し進んで左を見てみる。
あまりにも大きく、白く綺麗な建物に目を惹かれた。ここが今日から通う学校…?
流石都会…?こんな図書館みたいな学校なんて存在するのか?ていうかここであってるよな?
同じ服をきた人たちは皆この建物に入って行ってる。やっぱりここが学校なんだ。
現代的なのにレトロ風なその学校は、僕をワクワクさせるには充分だった。
皆と同じように下駄箱に来てみたけど当然僕の靴箱の名前なんて分かるはずもない。
まずは職員室に行かないと…。来客用のスリッパを拝借して廊下を見渡す。校内も外観と負けじとおしゃれだった。
前の学校より大きいから迷うかとも思ったけど下駄箱の突き当たから右の廊下のちょっと奥に「職員室」と書かれたプレートが飾られていた。良かった、行く途中ならまだしも校内での迷子は流石にプライドが削がれる。
ペタペタと足音を鳴らしながら職員室まで足を運んでいると、その手前の教室から勢いよくドアが開いて思わずぶつかってしまった。
「ヒョワーッ!すみませんすみません…! 」
ぶつかった表紙に持っていたであろう紙を落としてしまったらしく、バサァッと紙のなだれる音がして思わず僕も拾おうと屈んだ。それは楽譜だった。
「あ、僕は大丈夫です…!それより楽譜、拾うの手伝います! 」
「えっ優し…凄く助かる…ありがとう… 」
なんだか顔と喋り方が一致しない人だな。高身長イケメンなのに喋り方が吃ってるというか…普段寡黙な人なんだろうか。
考えているうちに楽譜を拾い終えてきちんとまとめて目の前の高身長イケメンの男性に渡した。先生…かな。
「ご、ごめんね、ありがとう…助かった、よ。じゃあ、また…! 」
やはり独特な喋り方をする先生だ。
気を取り直して職員室に行って簡単な説明を受けて靴箱の場所も教えてもらった。
基本ローファーだが校内では上履き制度らしい。一年生が赤色で、二年生が緑色、そして三年生が青色だそうだ。
二年生の僕は緑色になる。
校長先生に教室の前まで案内されたのでお礼を言って教室に入った。
朝のホームルームはまだ始まってないので教室内は話し声で賑やかだった。
席は一番後ろの窓際だった。最高の位置だな…。
そそくさと席へ行き鞄を机の上に起き椅子に座った。今日からここで勉強するのか…。いい席に当たって良かった。
ふと前の席の男子生徒が振り返って僕に目を合わせて「転校生?」と聞いてきた。
まさかいきなり話しかけられるなんて思っていなくてあのさっきの先生みたく「え、あ、う、うん…! 」と吃ってしまった。
「ハハッ、もしかして緊張してるの?大丈夫、ここは比較的穏やかなクラスだよ」
白いブレザーがよく似合う生徒だった。青少年のお手本のような美形。
そして穏やかな口調で何故かとても耳に馴染むような…良い声の人だな。なんかずっと聞いていたくなるような声。
「そうなんだ、安心したよ。前の学校は結構治安?悪かったから」
「それは大変だったね。あ、そうだ!今日一緒にお昼ご飯食べようよ!」
「えっ、いいの?前の席の人が優しい人で良かったあ〜 」
心底安心したように語尾を伸ばしてそのまま前屈みになってくの字で背伸びをした。
コミュ力高いなぁこの人。すごい良い人そう。是非このままお友達になってほしい。
「あ、もうすぐ朝のホームルーム始まるからまた後でね」
彼はそういうと体制を戻し前を向いた。名前、聞きそびれたな。
ホームルーム終わってからでも聞こう。
チャイムが鳴り、数秒後に教室の扉がガラガラと音を立てて開いた。
驚いた、最初にぶつかった高身長イケメンな人だった。学校にいるってことは先生なんだろうけどまさか担任だなんて。
校内は狭いな…と謎にしみじみ思った。
「…えー、ホームルーム始めます。まず最初に転校生が来ました。咲衣渉くんです。仲良くしてあげてね」
みんなが一斉に僕に視線が集まった。
急に振られたのでヘラッとしながら「よ、よろしく」としか言えなかった。
「とまぁ、大きい話題はそれくらいです。よし、先生は今日低気圧のせいで頭痛で死にそうなので終わります」
「先生頭痛で死ぬの?!」
「ちゃんと生きてください」
「人間はか弱い生き物です。ってことで初めの授業は…ああ、僕の授業だ…。クラシック流すだけで良い?」
「この間馬鹿みたいに出された宿題はどうすれば良いんですか?」
「ごめんなさいちゃんと授業します」
なんだこのホームルーム、漫才でもしてるのか?思わず笑いそうになってしまった。
て言うかさっきめっちゃオドオドしてたのに今はちゃんと喋れてる?
オンとオフの差が激しいのかもしれない。知らないけど。
前の席の男子生徒はツボが浅いのか笑い声を必死に抑えて肩が震えていた。
無事ホームルームを終えて先生は頭を押さえながら教室を出て行った。
「っぶはっ!あー面白かったあ、声出して笑うかと思ったよ」
早速振り返って僕に話を振ってきた。
「同感だよ。そう言えば君、名前なんて言うの?」
「椎田ほまれだよ〜。よろしくね、渉君!一緒に音楽室まで行こ? 」
「うん!ほまれ君ね、よろしく」
よし、初友達ゲット!僕の中の都合の良い神様に感謝の念を送った。
移動教室の教材を持ってほまれと僕は教室を後にした。
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