第14話 魔術師のお仕事⑥ 魔法具

 そんなマーシアを見てデネブは心外とばかりに、胸を張ってむくれた。


「ペテンとはご挨拶やないか? まぁ本物の魔法が使えるに越したことはあらへんけど、こういう魔法具を駆使して奇跡を起こすんも、アタイは立派な魔法やと思うとるで?」

「そ……そうなの??」

「そうや。要は結果が大事やねん。呪文を唱えて相手を燃やそうが、玉をぶつけて燃やそうがどっちでもええねん。とにかく、どつきまわす以外で戦う者はみんな魔術師でええんちゃうかなぁ? アタイはそう思うで?」


 もの凄く乱暴な意見だが『魔法使い』ペンダントを持った『本物』がそう言っているのだ、マーシアにそれを否定する理由はない。

 しかしデネブにとってはそういうペテン師も大事なお客なのだ、ペテン師をペテン呼ばわりして消沈させてしまっては商売にならない。


 本物の『魔法使い』の中には彼女のようなアマチュアを良く思わない者も当然多い。しかしデネブのように『魔法具』を生活の糧として商売している魔法使いにとってはそんな者たちもみな一様に『魔術師』として扱っている。


 なぜならば、そんなアマチュアの彼らもみな魔法具の消費者として業界に貢献している、そうして回った資金は巡り巡って新規魔法の開発や魔導書の制作資金になっている、だからギルドや学校もそんな連中を見て見ぬ振りしているのだ。


 そもそも魔術師と言うもの自体の定義も曖昧である。


 火・水・風・地の四つの元素を操る『魔法使い』

 それらを極め、さらに魔法の原初を探求する『魔導師』

 神に仕え、治癒の奇跡を降臨させる『神官魔術師』

 その両方の療法を操る『賢者』

 異世界の生物を召喚する『召喚士』

 生と死を司る『ネクロマンサー』


 などなど上げればきりがない為、それら全てを『魔術師』としてひとまとめに呼称し一般に表現しているものだから、自力で魔法は使えないが道具を用いて魔法を利用するのもまた魔術師ではないかと言う屁理屈も通ってしまうのである。


「そんなわけでどや、これ買わんか? 今なら美味しいピリ辛料理レシピが載った小冊子をおまけに付けたるで?」

「……それじゃあ完全に調味料じゃないのよ!!」

「……気に食わんか? ほんならどんな魔法具やったらええんや?」

「う~~ん、だからともかく魔術師らしい魔法を使って、たくましい戦士や傭兵の男に必要とされたいわけよ。そんな道具ないの?」

「なるほどなぁ……だったら四元素系統の魔法具ってことやんなぁ……」


 ゴソゴソ袋をまさぐるデネブ。

 その間にマーシアは何気に先の広場を見る。

 と、そこに設置されてある立て看板の前にいる一人の男に注目した。


「あ、あ、あ、あ、あ、あ」

 ツンツンツンツンとデネブを突っつく。


「なんやねん?」

「あれあれ、あの男。あれ良くない?」

 頬をピンク色に染めて男を指差し、デネブに囁いてくるマーシア。


「あ~~~~ん??」

 目を凝らして見てみるが、デネブには遠くて輪郭しか確認出来ない。


「遠すぎてよく見えへんし……おたくどういう目ぇしとるんや??」

「男を見るときだけは鷹の目になるのよ私は」

 キュピーンと目を光らせ鼻息を荒くするマーシア。


「とりあえず今度はあの男を誘ってみようと思うわ。ね、ちょっと手っ取り早く魔術師らしく見せかけられる道具を売ってちょうだい!!」

「ほなこれで」


 ペトっとマーシアの手の平に、さっきのとは違う小瓶を置くデネブ。


「これは氷の魔法を閉じ込めた魔法水や。使い方は簡単、冷やしたい相手に向かってぶっかけるだけでええで。値段は銅10枚や」

「よさそうね。じゃあいただくわ」


 チャリンと銅貨を10枚渡すマーシア。


「毎度~~♪」


 デネブの声を背に受けつつ、さっそく男に近づいていくマーシア。

 デネブも面白そうだから付いていくことにする。


 男は冒険者ギルドから発行された依頼書を読んでいた。

 冒険者ギルドは本来もっと街の外側、城壁と門の近くにあるのだが、居住区で生活している者たちのために、広場広場で簡易的な掲示板を設置し、そこでも依頼を確認することが出来るようになっている。

 それを確認している男は、おそらくこの街に拠点を構えている冒険者なのだろう。


 男は一人で、背丈は190センチくらい。濃い髭をたくわえ、筋肉隆々で背中には二本の短い斧がベルトに差し込まれている。

 正直、こんな猛獣のような大男はデネブの好みでは無いのだが、マーシアにはどストライクだったようで、一歩近づく度に頭の上のハートマークが増えていっている。


「……ふぅん……今日の依頼はこんなものか……どれもパッとしないが、仕方がない何もしないよりはましだな」


 男はブツブツ言いながら一枚の依頼書を板から剥がす。

 そこへ、いつの間にか背後まで迫っていたマーシアが、ソソソ……ぴと、とその背中に張り付く。


「おぉぉぅっ!??」


 いきなりの生暖かい感触にビックリし、慌てて振り返る男。

 そこを待ち構えていたようにマーシアの『全力可愛い上目遣い』が出迎える。


「あのぉ~~~~……お兄様ぁ~~~~出来ればぁその仕事にぃ私も一緒に連れってってくれるとぉ、うれしいかな~~って♡」


 そして男の胸を人さし指で触れ、くりくりするマーシア。


「……よおわからんが……冒険者ってああやってパーティー組むんやろかのぉ??」


 木の陰に隠れて見守りながら、デネブは呆れ声でそう呟いた。

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