《修行中の半亜人》:円卓会議③

「まずは、記録用に出席確認を取ります」


円卓を囲っているのは最上級ギルドのギルドマスター、そして選出された他ギルド等級のギルドマスターたち。

その点呼を取る時、一番気をつけなくてはならないのがその順番である。


「《ルベリオロス》のギルドマスター、【天災】のプラーグ・ディストラ」

「《桜華乱舞》のギルドマスター、【演舞】の八重桜音羽」

「《セリーヌ》のギルドマスター、【狩人】のルン・ロトント」

「《クラヴィエール》のギルドマスター、【要塞】のチャリオット・ライファ」

「《ロイヤル》のギルドマスター、【狡猾】のマグニ・デレシウス」

「私、《ディアレスト》のギルドマスター、【賢者】のエンハウス・バビロン」


そして、とエンハウスが続ける。


「《ディアマンテ》の副団長、【大魔道士】のクリスティーナ・デン様」


最初に血気盛んなプラーグを持っていき、最後にクリスティーナに対して様をつけることによって均衡を保とうというエンハウスの目論見だった。


「あら、エンハウス。私の友人の名前は呼んで下さらないの」

「ご友人でありますか」


困惑しエンハウスは辺りを見回すが、クリスティーナの友人に該当しそうな人物はチャリオットしかおらず、他は殆どが見知った顔である。


「失礼ですが、そのご友人というのは」


するとクリスティーナが微笑し、左手を掲げる。


「ここにいるじゃないの」


大気が歪み、まるで蜃気楼のように人が空から溶け出てきた。

筋骨隆々とした巨躯に、黄金の装飾が施された全身鎧を着込んだ男だ。

短く刈り上げられた黄金色の髪に鮮黄色の瞳。

それら全てが獅子を連想させる人物である。


「こ、これは!」


チャリオットが席を立ち、床に平伏する。

その動作に戸惑いを覚える者もいるが、クリスティーナの横に出現した人物を脳が理解して、チャリオットの謎めいた行動の意味を悟る。


「《ディアマンテ》から【獅子王】を二つ名に頂く戦士、ジャック・レストフ様」

「おお! 驚かせてしまなかった!」


クリスティーナが作った二つ目の玉座に腰を降ろしながら、人の良さそうな笑みを浮かべたジャックがエンハウスに手を上げて、謝る。

クリスティーナとは対照的な性格をしているせいか、目の前に座っているのが『英雄』であることを忘れてしまう。


そして誰よりもチャリオットという人物はジャック・レストフを尊敬し、敬愛してい

た。現に、床につけられた頭は微動だにせず、呼吸も忘れるほどに敬意を評している。


「それにしても円卓会議は久しぶりだ! 前回参加した時はまだこの要塞都市がなかったからな! あれは確か大公国の宮殿だった気がするな……なぁ、そうだよな、クリスティーナ!」

「ええ、そうよ。でも、あなたが参加したのは四百年も前の話よ」

クスクスと口に手を当てながらクリスティーナが笑う。

「そんな最近だったか! オレとしては千年以上ぐらいは経っている気分なんだけどな!」


ワッハッハッ、という言葉でしか形容できない大笑いをするジャック。

その笑い声に合わせて鎧が輝き、瞬き始める。

まるで生きているかのように鼓動していた鎧はジャックの笑い声が途絶えると同時に何の反応も示さなくなり、普通の鎧へと戻った。


「千年前といえば『精霊竜』を討伐していた頃かしら。面倒な竜だったけれど、楽しかった事を良く覚えているわ」


四百年前というワードに慄いていた冒険者達を震わせる『精霊竜』。

千年前までは世界を竜が飛び回っており、殆どが劣等種たる人類に対して興味を示さなかった。


だが、古竜種として知られる『精霊竜』が五つの人類都市を破壊して回り、大勢の人々が死んだというのが古の巻物には記されており、語り部の間でも有名な逸話だ。

そして、各国からの緊急依頼を受けた『五大英雄』が『精霊竜』の討伐を決行、地を抉り空を裂く戦いの末に竜は地へと堕ちたのである。


それは誰もが幼き時に一度は聞き、憧れたことのある『英雄』の物語である。


「し、失礼ながらクリスティーナ様。時間が押しておりますので……」

「あら、そうでしたね。既に皆様にお伝えしています通りですが、私からも再び言わせて頂きますね」


クリスティーナの藍色の瞳が妖しげに光った。


「教皇庁を取り巻く状況について。そして、未成年者に対する禁忌魔法の行使及び魔法儀式の計画に対する……告訴ですわ」


二人の魔王が腰掛ける玉座から溢れ出してきた覇者としての風格が場を支配し、頂に限りなく近い存在であるはずの冒険者たちが、まるで幼子のように怯えていた。

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