《修行中の半亜人》:少女③

 「僕の服じゃ大きいかなって思ったけど。なんかなー」


シエラに選んでもらった服を少女に着せてみた所、特に違和感がない事にティルが不平を漏らす。

ティルが小さいのか、あるいは少女の発育がいいのか、その両方か。


「それにしても……」


落ち着いてようやく、羞恥心がティルに襲い掛かっていた。


朝陽が優しく照らしている昼前、共同で管理されている井戸の周辺に人気は一切なく、時折、住民の話し声や笑い声が聞こえるぐらいだ。

そんな中、一人の少女が行水に勤しんでいた。

埃と汗で汚れ、本来の色艶を失っていた髪が清水によって洗い流されるたびに本来の色合いであるライトブラウンの質感が取り戻されていく。

また、髪から肩へ、そして腕や上半身へと水が流れるうちに透明感がある肌が存在感を増していく。

整った輪郭に華奢な丸みをもった顎、そして通っている鼻梁。

若干、人間味を取り戻した瞳。

痩せていた身体が衣服で隠れたことも相まって異常な身なりの少女から普通の少女を通り越して、人目を引く美少女へと変貌してしまった。


「これじゃあまりにも目立つな……」


地味な服装にも関わらず、だ。

冒険者や町娘といった雰囲気は一切なく、深窓の令状が駆け落ちしたかと勘違いされるといっても過言ではない。


「お腹……」


少女と少女のお腹が抗議の声を上げ、食物を催促する。


「うん」


しかし、選択肢は少ない。

住民が昼の水汲みへと来る前に財布と剣を携えて、二人は街へ向かった。

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