《見習いの半亜人》:運命

 星々が輝くあまねく天空に橋をかけ、旅人の行き先を確かにする一等星が燦然と煌めいている。要塞都市カストラの外周地域までもが照らされている。

しかし、何かがいた。不自然で異質な存在だ。

それは同じ紋章が施されたローブやマントを着ており、普通の人間には認識できないほどの高度で完全に停止している。

足元には何もなく、ただ宙と無だけがあった。


「まさか、感づかれるなんて思ってもいなかった! 本当に勘の働く子だな! お前さんの魔法が感知されるなんて何百年ぶりだ! 面白い! 面白すぎる!」

「言っておくけど、私の魔法は完璧だったわ。姿は完全に透明化していたし、魔力だって偽装していた。あの子に繋がる魔力は全てが常人どころか、高レベルの冒険者ですら気付けないものよ。本当に興味が湧く子ね」

「私の隠密には天使や悪魔でさえも騙される。君の魔法には神さえも欺かれる。おそらく、彼に施されている呪いが反応したんだろう」


三人の男女が話している中、別の一人が眼下に広がる要塞都市の一角に視線を注ぐ。


「どうしたんだ! お前らしく……」

「《黙って》」

「……ッ……黙らない! 【獅子王】は黙れないのさ!」

「ッハァー、ホントに嫌い。ただ感傷に浸っていただけ。昔を懐かしむことぐらい、その小さな脳味噌でもできるでしょう」


最初に話しかけた大柄な方に向かい、小柄な方が自分の頭をコツコツと叩く。

安い挑発に乗ることはなく、自らを【獅子王】と呼んだ大柄な方も街を見下ろす。


「呪いがあるとはいえ、十分すぎる程の魔力にまだ開花し切っていない魔法的な才能。身体能力も申し分ないし、いざという時の判断力にも優れている」

「んじゃ、何で接触しないんだ! 観察は十分にしたろう、お前はあの子が可哀想じゃないのか」


腰に一振りの直剣を差している男に向かい、大柄な方が不平を漏らす。


「感情論だけで動くべきではない。お前だって分かっているだろう、彼に欠けている致命的な器」

「はいはい、勇敢な心な。だけどよ、冒険者である以上、臆病な心だって必要だ! お前が一番知ってることだろう」


すると、どこからともなく杖を取り出した身体のフォルムから見て女が【獅子王】である大柄な方に杖を突きつけた。杖の先から微かな光の粒子が仄めいた。

大柄な方はおどけたように両手を上げて降参のポーズを取った。しかし、その額を一筋の汗が伝った。

女はその姿に満足したのか杖を手放した。


「それは、ただの冒険者の場合。私達が求めているのは『英雄』たる器。あの子には才覚があるけど、まだ殻を破り切っていない。雛鳥にならない限り、私達が手を出すことはご法度よ」

「そういうもんなのかね」

「雛鳥は初めて見た存在を親として認識するの。私たちでも、彼でもなく、運命が親鳥を決めるべき」


幾度となく繰り返されている会話。


「私だって納得はできないわ。この手であの子を育てたい気持ちもある。でも、流れに逆らってまで彼を矯正すれば、因果は回って予想だにしない事が起きる」


すると、剣を腰に差している男が手を街へと差し伸べた。

淡い光が手から漏れ出し、光の粒子となって街へと降り注ぎ、雪のように消えていく。


「不穏な世界だ。止まぬ、イレギュラーの出現。怪しい動きを見せる人々と国々。ギルド間の関係は未だかつてないほど冷めきっている。何が正解、何が正義。もはや、長く歴史を見てきた私達にすら分からないことだ」


言葉を紡ぐごとに光が現れては消え、現れては消えを繰り返す。

それはさながら魔法でもあり、歌でもあり、願いでもある。


「戦いの時が迫っている。彼は最後の希望だ、私達は彼の道を整えよう」


すると、空気が和らぎ、紡ぐ者が笑みを浮かべたことに周りは気づく。


「良き出会いが君の上にあるように」


最後の粒子が空へ放たれ、それが消える頃には三人の姿はそこにはもう無かった。

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