《見習いの半亜人》:デート②

 シエラに案内されるまま、人混みの中を進んでいく。


プロテクターを品定めした店のちょうど反対側に衣類を販売している店が密集している所があり、そこでティルの服を探すのだそうだ。

毎回、衣類と雑貨は競争率が高いため、激しい値引きの駆け引きがなされていることを知っているシエラは、しっかりとした材質を使用している事で有名な中堅店に目をつける。

露天の中には粗悪な素材を用いた服を在庫処分のように売っているところもあり、真眼とまではいかないが、ある程度の目利きが必要になってくる。


「すみませんニャ」

「はい、いらっしゃい。ゆっくり見てってな」



忙しそうに会計をしている女のヒューマンが、シエラに言った。

男物か女物かと問われれば、どちらとも言えないとしか答えられない服が山のように積み上げられている木製のワゴンをシエラが物色し始め、ティルはただそれを眺めている事しかできない。

ワゴンの周囲には大勢の人が衣服を求めて押し合っているため、ティルがその中に入れば一瞬で押し潰されてしまうだろう。

大量の衣服と格闘すること数分、シエラが二枚の上着とズボンを手に歩いてくる。

満足げな表情から察するになかなか良い品を見つけたのだろうか。


「これ、ティル君には少し大きめかも知れないけど、どんどん身長も伸びてくだろうし、半年も着られれば御の字かなニャ〜」


服をティルに当て採寸しながら、まるで母親のようなことをシエラが言う。

微かに漂ってくる香水の香りを出来る限り無視しするティルに構うことなく、シエラが手早く服が着れられるかどうか見ていく。


「本当は試着できればいいんだけど、ここじゃできないニャ。でも、私の見立てでは入ると思うニャ」


ライトブルーとモスグリーンの単色の上着、そして滅多なことでは破れなさそうな黒色のズボン。


「これにします」


元よりティルにはセンスがない。

下手をうってお金を溝に捨てるより、シエラが選んでくれた物を素直に買うのがベストな選択肢だろう。


「それじゃ、ここで待っててニャ」

「ど、どこへ行くんですか」


指と首の関節をポキポキと鳴らし、腕を回して今から戦いに行く戦士のような面持ちになるシエラが不適の笑みを浮かべ、人差し指で露天の中を指差す。


「あそこ」


シエラが指差した先にあったのは、堅物そうな表情をしているヒューマンの老婆だ。

店員の中でもひときわ早く会計を済ませ、手際よく客を処理していっている。


「何をするんですか」


物騒な気配が滲み出てきたシエラに恐怖を抱いたティルの声は少し震えている。


「値下げ交渉……任せて、この服の代金を七割以下にしてくるから」


信じられない、という気持ちに駆られるティルだが、シエラの真意に気がつく。


「そんな、僕のために」

「大丈夫、大丈夫だよ、ティル君。お姉さんに、任せる……ニャ」


さながら、決戦に挑む大戦士かのような重い足取りでシエラが会計まで進むと、老婆がお手並み拝見と言わんばかりに広角を釣り上げる。


そこから先、数分間にわたって行われた”口戦”はティルの精神を削るだけに留まらず、興奮しきったシエラを抑えるために体力を大量に消費したのであった。

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