《見習いの半亜人》:五大英雄①

 「レベル10になったと聞いたニャ!私のアドバイスのおかげだね、感謝して欲しいニャ!」


様々な配線が複雑に絡み合い、素人が触れれば直ぐに壊してしまいそうな四角形の観測機の前に無理矢理座らせられたティルは、朝一番でレベルの計測を行っていた。

手や足、頭などに紐のようなものが伸ばされ、粘着力のある物で固定されている。時より熱くなり、冷たくなったりする紐に毎回驚きつつ、やっとの思いで計測が終了した所だ。

神々の機械と呼ばれる代物だ。

肉体や精神を超えたところにあるレベルという概念に過ぎない事柄を計測する。


「特に筋力と魔力の上がり方が凄まじいのニャ。逆に耐久の上がり方がイマイチで敏捷は殆ど上がっていないのニャ」


レベルを構成する要素は複数あり、魔力・筋力・耐久・敏捷が冒険者にとっての主だったパラメーターとなっている。


「やっぱり、レベルが低い時は満遍なく上げたほうが良いんですかね」


紐を身体から引き剥がし異常がないか手足を摩りながら、ティルはシエラの顔色を伺う。

レベルは一度上げてしまうと、元には戻せない。

例えば筋力のみでレベルを最高にしてしまうと他が一切上げられていない状況になるため、最初は満遍なくパラメーターを上げつつ、方向性を決めるのが最善と言われている。


「普通なら私はそうアドバイスするニャ。でも君は魔法剣士からジョブチェンジするつもりはなさそうだし、それなら筋力と魔力を中心的に上げていくのが将来的にも良いのニャ。それに、魔法剣士として大成した人は少ないから、どうアドバイスするのかも悩みどころニャ。君はフィオ・デ・カータという御方を知っているかニャ」

「フィオ…デ・カータ……聞いたことありませんね」


そうすると、シエラは大仰に驚いた素振りをし、まじまじとティルを見つめる。

「君は本当に何も知らないのニャ。それなら、《ルベリオロス》は知っているニャ」


ティルが首肯する。


「《ルベリオロス》を含めた七つのギルドが最上級ギルドとして組合に登録されているニャ。《ルベリオロス》《セリーヌ》《ディアレスト》《クラヴィエール》《桜華乱舞》《ロイヤルズ》。それぞれが高レベルのメンバーを多数抱えている超一級のギルドニャ。その中でも他の追随を許さないほど、強大なギルド《ディアマンテ》があるニャ」


《ディアマンテ》。

確かに聞いたことがある名だ。


「思い出したかニャ。ギルドメンバーの総数がたった二十一名なのにも関わらず、地帯主を《ディアマンテ》単体で撃破できるほど、化け物じみたギルドニャ。加えて、《ディアマンテ》の幹部たちは殆どがレベル80後半ニャ」


は、はちじゅう。

レベル50、いやレベル40に到達した者たちですら一般的な冒険者にとって憧れの的だ。

レベル60代とも慣れば英雄視され、レベル70など神のように扱われる。

それが《ディアマンテ》だけで複数名いるというのか。


「驚くのは早いニャ」


なぜかシエラが誇らしげになっているが、この際それはどうでも良い。


「《ディアマンテ》の団長、副団長、参謀、そして戦闘員二人は……レベル100に到達したヒューマたちニャ」

「ひゃく!?」


思わず、席から立ち上がったティルの後ろで椅子がけたたましい音を立てて倒れる。

レベル100など神話の世界の話しですら聞いたことがない。

口にするのもおこがましく、天上界に住まう神々が唯一最高レベルに到達していると推測されいている。

それほどまでに無謀であり、現実味がなく、生物では到達できない高みである。


「ティル君は『五大英雄』のお伽話を聞いたことがないのかニャ」

「勿論、ありますよ。僕が住んでい町のシスターがよくお話してくれました。『五大英雄』様たちのお陰で悪魔が現世から追放され、平和が訪れたお話は誰もが知っている……嘘、ですよね」


ティルの中で一つの仮説が生まれるが、それはあまりにも突拍子で信じるに値しない。だが、心の何処かで、それは真実だと叫んでいる自分がいる。


「その方々ニャ。《ディアマンテ》の最高幹部たちは『五大英雄』として暗黒時代を生き抜いて、新しい時代の礎を築いた御方たちニャ」


信じられない。


「で、でも『五大英雄』のお話は何百年も前のお話ですよね。ヒューマンがそんなに生きられるわけがない。エルフやドワーフだって無理に決まってる」


すると、シエラが微笑む。


「私も最初は信じられなかったニャ。でも、一度会ってみれば体中がビリビリして、直感的に分かっちゃうニャ。ああ、目の前に立っている人たちは確かに何百年、もしかした数千年もの時を生き続けている、歴史の体現者なんだって」


歴史の体現者。

長きに渡って英雄と讃えられている者たちが間近に存在していた。

幼い頃から聞いていたお伽話は現実だったのだ。

その事実にティルは思わず身震いした。

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