勇者タケオの苦難

@odan

第1話 タケオ、異世界召喚される

 ある日の夜、俺が自分の部屋のベッドで眠っていると、誰かの声が聞こえてきた。


「おーい、トドヤマ・タケオくん」


 寝ぼけた頭で考える。誰だ? 家族じゃない。クラスの友人にしてもおかしい。


「起きとるかー?」


 低くしゃがれた声からして、おじいさんみたいだ。一昨年死んだじいさんが化けで出たか? でも家族なのにフルネームで呼ぶのはおかしいよなあ?


 だんだん意識がはっきりしてきた。俺は起き上がって辺りを見回す。

 何だか……変な場所だ。足元が白い霧に覆われていて、フワフワしている。

 そして目の前にいるのは……。


「まぶしぃ……」


 頭が光っているおじいさんだ。ハゲとかそういうレベルじゃなくて、顔が見えないぐらいまぶしい。実際に光を発している。

 俺はパジャマのままで、ビカビカまぶしいおじいさんと対面していた。


「やっと起きよったか」

「……誰?」

「ワシ、異世界の神様。お前さんに勇者として魔王を倒してもらいたいの」


 こりゃ夢だわ。しょーもな。

 ゴロンと横になった俺に、神様があわてた様子で話しかけてくる。


「こりゃこりゃ! 寝るでない! 本気と書いてマジなんじゃよ! マジマジマジの大マジじゃ!」


 うえ~、異世界召喚とかいうヤツ?


「魔神が魔王を送り込んできて、もう大変なんじゃ! このままじゃとワシの世界が滅ぶ!」


 俺はしょうがなく体を起こした。


「何で俺なんすか」

「そりゃ特別な才能があるからじゃよ」

「何それ?」

「当然、異世界で勇者になる才能じゃ」


 いらねぇ……。そんなのより現実で使える才能が欲しかった。


「とにかく助けてくれい! できる限りのサポートはする!」

「まあいいですけど。具体的には?」

「とりあえず、言葉が通じるようにしておく。変な病気にもかからんぞ」

「そのぐらいは最低限ですよね」

「お、おう……。金も当分の生活には困らんぐらいは渡す」

「当分って?」

「一ヶ月ぐらい」

「えぇ……そこケチるんですか?」

「あんまり大金を渡してもロクなことにならんのじゃい! 魔王そっちのけで商売したり、豪遊したりの!」


 うーん、まあ一理ある。


「お前さんがつまらんことで迫害されんように、勇者としての身分も与える! だいたいの人は親切にしてくれるはずじゃ!」


 おお、それはありがたい。見ず知らずの旅人なんて怪しまれるだけだろうしな。


「ほんでな、ほんでな、こっからが本題じゃよ。お前さんに魔王を倒すための特別な能力を授けようと思うんじゃ! ほれほれ、イマドキの若者って、こういうのが好きなんじゃろ? じゃろ?」

「何をくれるんですか?」

「一つは『時間を戻す能力』じゃ! 『ギブアップ』と大声で叫べば、いつでもここに戻れるぞい」

「最初からやり直しができるってコトですか?」

「そう、詰み防止じゃよ。それと『強敵を倒すと強くなる能力』も授けよう」

「レベルアップ?」

「似たようなもんじゃな。ザコばっかり相手にしても強くなれんから気をつけいよ」

「ほんでな、ほんでな、最後に授ける能力! これが大本命じゃ!!」


 いやに神様が張り切るから、どんな能力がなのかと俺は生ツバを飲む。


「『苦戦するけど絶対に勝てる能力』!! どうじゃ!!」


 どうって言われても。


「そんなん良いんすか? スポイラーじゃないすか」


 そんな能力があるなら負けようがないじゃん。


「構わん、構わん。八百長と言われようと、エンタメが一番じゃからの」

「何の話ですか?」

「いやいや、こっちの話じゃよ」

「そんな回りくどいことやるくらいなら、神様が直接魔王を退治して解決したらいいんじゃないんですか?」

「そうもいかんのじゃよ。これは正式な協定なんじゃ。ワシも魔神も人間界では本気を出さない。代わりにワシは勇者を、魔神は魔王を使う。それで合意したんじゃ」

「合意を破ったらどうなるんです?」

「世界が終わる」

「……じゃあしょうがないっすね。でも『絶対に勝てる能力』はさすがにマズくないっすか?」

「何のために『苦戦する』と思っとるんじゃ? バレなきゃええんじゃよ」


 インチキくさい。でも絶対に勝てるなら良いか……。


「それで、やってくれるかの?」

「はい。やります」

「うむ。がんばってくれい」

「おっと! その前に……今から行く世界ってどんな世界なんですか?」

「そりゃもうおなじみの、なんちゃって中世西洋風ファンタジーワールドじゃよ」


 自分でなんちゃって中世西洋風とか言うなよ。


「だいたいの病気やケガは魔法で何とかなる程度の文明レベルじゃ。ほんならがんばっておいでの~」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る