水槽の月~我思うとも、我在らず~
相対冷夏
前口上
序章
――草木の眠る丑三つ時に追う影多くに去る影一つ
九尾の狐は追い立てられて、人と鬼とを見紛うた――
――視界の冴えない丑の三つに白い毛並みが走り行く。
それを追うのは鎧兜を身にまとった人間たち。狩と形容するにはあまりに仰々しい。
(中々に面倒なことになった。ここまで広まれば形だけとは言え人の王も動かざるを得ないだろうな。)
九尾の狐は考えていた。警戒していた。いや、考えれていなかったのかもしれない。
茂みでソレが動いた時に、狐火で焼いたが運の尽き。本来、事の発端を考えれば人間が伏兵を用意できるはずがなかった。
焼けた姿は人の形、しかし異形の鬼である。
一方長野県のとある場所。時刻は午前二時を回ったところ。背広を着た男が家の戸を開けた。
「ただいまー」と借り物の我が家に帰宅を報じる。
帰宅がこんな時間になる仕事は碌なもんではない。故、疲労も並ではない。
割に美形なこの男に女が付かないのは時間と所得のなさが所以だろう。
尤も、まともな消費活動ができていないから貯金自体はそこそこあるのだが。
して、疲労がたまりきった彼はもはや何もせずに床に就く。
しかし彼の心には一つ引っ掛かることがあった。
(今日は何かのイベントか何かがあったはずだが…)
巨大な月の煌々とした光の下で彼は意識を手放した。
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