4魂目

とても切なげな重みを含んだその声に、思わず息を呑んだ。


─赤いのが、こんな風に感情を孕ませた物言いをしたことが、今までに一度でもあっただろうか。




「鬼は、閻魔様が消えていかれるのを何度も見送ります。

 個人差はありますが、その中でも一番同調した─心を通わせ合った─時間が長いされる閻魔様が消えられた時に、『悲しみ』を知ります。そして、その『悲しみ』を癒す為に『喜び』などの新しい感情を覚えていくのです。」


「…そう、なのか」


「ええ。人間ほど、複雑なものではありませんが」




そう言葉をかければいいのか考えあぐねている間に、先程去っていた

青いのが、着いたばかりの魂を連れてきた。


この場に不釣り合いなほど、軽快かつ優雅な足取りで。


考えは、中断させねばならない時間のようだ。




「閻魔様。連れて参りました」


「ご苦労であった。

 …死者たちよ、順番にこの閻魔の前に跪くがよい。

 生前の行いを元に、行くべき道を示してやろう」




私の言葉通りに、死者の魂たちは一人ずつ目の前で跪いた後、示された道を進んでいく。

例え、それが、自分の望んだ道ではなかったとしても。



私は、書類に記入された死者の過去に触れ、道を指し示しながら、隣に控える赤い鬼のことを考えていた。



─なぜ、急に、あんなことを言い出したのだろうか。

 鬼が感情を抱く理由。

 それを告げてきたことに、どんな意味が秘められているのだろうか。




「…そういえば、私はどのくらいこうしていたのだろうか」




此処の時の流れは人の世と同じだが、我々は人間と同じように、時を、日を数えるということはしない。

意味がないからだ。

だが、意識を向ければなんとなく感覚でわかる。

勿論、その理屈を聞かれたところで、答えることは出来ない。

それもまた、考えるだけ無駄だ。




「……もう、30年になるか」



多分、閻魔の中では長命の部類に入るだろう。

歴代最高は、40年程だった気がする。




「閻魔の、最期か」



考えたこともなかった。

どんな風に消えていくのか。

話に聞くことはあっても、想像したことは1度もない。

どうでもよかったのだ。一度は死んだ身なのだから。




─なのに、なぜ。今はこんなに気になるのだろう。

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