最弱ステータスのこの俺が、こんなに強いわけがない。

さこゼロ

第一章 プレミアム召喚札

第1話

 その日は佐敷瞳子さしきとうこにとって、「全く何て日だ!」と言うヤツだった。


 まずひとつ目に、告白が失敗に終わったこと。


 しかし勘違いしないでほしい、フラれてしまった訳ではない。保留に終わっただけだ…いや、何とか保留にこじ付けたと言うべきか。


 彼女には、小学校時代に仲の良かった男の子の幼馴染みがいた。名前は神木公平かみきこうへい。引っ込み思案な性格の彼女をいつも優しく導いてくれる、とても頼れる存在であった。


 ところが彼女の親の転勤に伴い、佐敷家の引っ越しが決まる。そして残念ながら、新しい土地は佐敷瞳子にとって馴染めない場所になった。


 佐敷瞳子はボブカットと言えば聞こえはいいが、前髪の長い黒のおかっぱ頭をしている。150センチメートルに届かない身長と大人しい性格、そして髪型が相まって「座敷童子」と呼ばれていた。


 そうして高校進学を機に、彼女は地元に帰る決意をする。


 唯一の心の拠り所である、神木公平に逢うためだ。


 しかし佐敷瞳子には、彼の情報を集める「地元のツテ」などある筈がない。


 だから…それは全くの偶然であった。


 高校のクラス発表の掲示板の下で、ずっと待ち望んでいた「神木公平」の姿を見つけたのだ。


「公平くんっ!」


 予想以上に大きな声が出たことに、佐敷瞳子本人が一番驚いた。


 桜舞い散るなかで振り返った神木公平は、彼女の瞳にはとても輝いて映った。


 身長は170センチメートルはあるだろうか。亜麻色のブレザーに黒のスラックスを着け、昔から変わらないクセ毛を今は茶色に染めている。


 しかし振り返った神木公平は、とても不思議そうな顔をしていた。


「わ…私、瞳子。佐敷瞳子!」


「佐敷瞳子……あっ、お前、瞳子か!」


 神木公平がパッと笑顔になる。どうやら思い出してくれたようだ。


「久しぶりだなー、元気にしてたか?」


 そのとき、再会の感動に感極まった佐敷瞳子は、感情の暴走を止めることが出来なかった。


「公平くん…好き! 大好きっ!」


 周辺にいた他の生徒たちが、突然の告白劇に騒然とする。


「……え? え?」


 何が何だか分からない神木公平は、周囲の注目に耐え切れなくなり、佐敷瞳子の手を引いて脱兎の如く逃走した。


 ひと気のない校舎裏まで逃走した神木公平は、息を乱しながら佐敷瞳子の手を離す。


「お…お前、いきなり何言ってんの?」


「ごめん…なさい。だけど、やっと逢えて…嬉しくて」


「……本気、なのか?」


 神木公平の問い掛けに、佐敷瞳子は黙って頷く。


「そっか…でもゴメン。俺、お前のこと、そーいう対象で…」


「待って…お願い、待って!」


 佐敷瞳子は両手で、神木公平の両肘を押さえるように掴むと、頭を下げて懇願した。


「返事は、今の私を知ってからに…してほしい」


 ……これが、まずひとつ目。


 そして、ふたつ目は…


「何だ、何だ? お取り込み中か?」


「もしかして、告白ー?」


 突然そばで声をかけられ、佐敷瞳子と神木公平は慌てたように辺りを見回した。


 いつの間に移動していたのか…そこは、数人の若者がいるだけの何も無い空間であった。


 そう、ふたつ目は、


 異世界召喚に巻き込まれたことである。

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