5 邂逅
タイヨウは今では立派な浪人生だ。予備校に毎日通っている。
不思議なことに志望校全てから不合格通知を受けた当初から、受験に失敗した、とは考えなかった。失敗の理由探しをする気力がなかったのかもしれない。
あるいは他に夢があったせいかもしれない。
予備校の夏季講習へ挑む心持ちが次第に薄れ始めたある日、ランドセルを背負って、装飾のない白い日傘を差した少年とすれ違った。
朝。登校途中。嫌味に青々とした人工芝の河原の上を架け渡された道路橋に差し掛かった時だった。
少年は近付きながらタイヨウを頭から爪先まで凝視して、何を思ったのか、日傘を渡してきた。
「貸してあげる」
もちろんタイヨウは日傘を羨む素振りを見せた覚えはない。
「いや、いい……。いらないよ」
少年は歯痒そうだ。
「夕方、取り行くから」
そう一方的に押しつけて、行ってしまった。
その少年は、
彼はタイヨウが予備校に向かう時間に必ずいて、必ず日傘を押しつけて夜帰宅する時にタイヨウを待ち構えていて、必ず日傘を受け取った。
行くも帰るも時間はまちまちだったのに必ずタイヨウが高架橋に差し掛かるタイミングぴったりにそこにいた。
それを十回は繰り返した頃だった。
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