第1部 第6話 赤い小箱の秘密 5

小箱の存在は、完全に中に浮いてしまった。殿下の悪ふざけに過ぎなかったからだ。


横で反省しては、いるけれど・・・


「仲達殿、赤い小箱は、持ってきました?」


仲達は、胸元に入れていた小箱を机に出した。


「奏、これに見覚えありますか?」


外では殿下とか読んでられないので幼名の『奏』で月涼は読んでいる。月涼と奏は、幼馴染なのだ。


月涼と奏の関係は、またの機会にして


「仲達殿も外では、奏でお願いしますね。そうですよね殿下・・・。」


と月涼は言ったが、仲達は、なかなか難しいと思うような顔をしている。


慣れてもらわないとな~困るんだよな、街中や酒家で殿下とかって連発されても。


赤い小箱を開いて指輪を見る奏。


「これが奥司書に?」


「えー書簡ととも落ちてきました。当時の書簡とともに隠されていたか?後からそこに隠したのかは定かでないですが・・その年代の書簡のそばでした。」


じっと見つめてこの箱の中に短冊は?と奏が言った。


「ありましたよ。底に入れてあります。」


そっと指をさした。月涼は奏の顔を見ると奏は、懐かしそうな顔をしていた。


「涼麗・・・母を覚えているか?」


「えー。令妃ですね。日差しにあたるとキラキラ光る異国の美しい髪色を今でも覚えていますよ。とても優しくて、令妃自ら作ってくれた蛋糕が大好きでした。奏とよく食べましたね。」


月涼にとっても、とてもジンと胸が熱くなるそんな思い出だ。


完全に二人の世界のせいで、透明人間のようになっている仲達の間がもたなかったのか割って入った。


「殿下いやもとい奏・・殿。それでは、これは、奏・・殿の母上のものなのですね。」


うなずく奏。なんだか、やっと世界に入れてホッとする仲達。


『殿』もつけなくていいけどな、まあいいかと思う月涼。


「これは、母が亡くなる前に私に持っていてほしいと渡したものだ。だが、亡くなった後もそばで泣き続けていて、気づいたらもう手の中になかった。後からどれだけ探しても見つからなかった。多分、入宮にあたって、乳母が隠したんだろうと思っていたんだ。いつか返してくれると思っていたら入宮直後に乳母も・・・。」


しんみりとした少しの時間が流れたあと月涼が口を開いた。


「この小箱の本来の持ち主は、奏だとわかりましたが問題は、誰が何のために持ち去ったか?といことと今回の依頼である先々代の一文が関係あるのかですね。どちらも奏にかかわりがあるのですからつながっているのではないですか?」


仲達が月涼に与えられた依頼について聞いてきた。


「今回の月涼の依頼が何かわからないと私も考えが進まない。詳しく教えてくれ。」


奏が割って入り


「それは、私から言おう。月涼には、先々代の皇后に上がった廃妃についての上訴文を探すことを頼んだ。現在の皇太后は、知っての通り我弟の妃だ。皇太后には、もうすぐ子供が生まれる。先帝である弟との子と言い張っているが月数が合わない。現帝は、それを持ち出して私を東宮に収めたんだがそれを暗躍して生まれてくる子が男の子であれば東宮にしようとしているのだ。」


奏は、先々帝の側室令妃との間に生まれた。


先帝である弟は、嫡子として皇后の間に生まれた為、皇位を継いだのだが当時の皇后には、密通の疑いがあり先々帝の子ではないという上訴が出ていた。


結局、皇后が毒殺され事の真相が審議のまま先々帝も病で亡くなり、東宮として立っていた弟が先帝となったのだ。先帝は、1歳になる前に即位となった。


先帝は、もともと病弱で皇后(現皇太后)が懐妊してすぐに亡くなった。


そして、子が生まれていないこと等の理由で摂政をしていた叔父が実権をにぎり現帝となった。


叔父は、引き取って、養子としていた奏を東宮として立て後ろ盾となってくれたのだ。


「上訴文を探すということは皇太后から生まれてくる子が誰の子かを調べているのではなく・・・」


奏が重苦しい面持ちで言った。


「そうだ、先帝である弟の即位事態を無効にできる為の上訴を探せと現帝からの依頼だ。」


焦った仲達が


「ですが、そうなれば、皇太后の父である左丞相が動きます。軍部が動けば内乱になるのでは?」




月涼は右丞相太師のものに近い。本来は皇室のみの機密事項で動くが今回はそうもいかないなと思った。


「ただ、ただ、一文探せってことじゃないんですね・・・やっぱり。」


とぼやく月涼・・・。


「では、太師がその一文を探せば、それを補完する何かを持っていると言事ですね?奏」


んっ・・・ちょっと待てよ。あの箱の指輪って本当に令妃のものなのか?


奏に渡したからって令妃のものとは限らないよな。


もしかしてもしかすると・・・いやいや、感で話すとだめだしな。


さっき、遺品出てきてうれしそうな奏を打ちのめすかも知れないよな。


でも、やっぱり・・・と月涼の頭の中にはある推理が浮かんでいた。


それは、持ち去ったものが分かれば話せるのだが今、言ってしまうのはまずい気がしていた。


なので月涼は、事態を進めることにした。


「とにかく、偽の小箱を持ち去ったものを探すことに専念しましょうか?」


糸口が見つかるはずです。


私は、もともとのご依頼の一文を探しますので。


「あっ、奏。藍、開放していいですよね。彼は意外と使えるものですので。」


そういわれてちょっとムッとする奏であった。


そして、もう一つ不可解なことそれは、女官は奏が送ったものではなかったからだ。


奏が送った女官は、藍と出会えてなかったのである。


藍を拉致できたのは、女官に話しかけているものをとらえて連れてけと命令されていた為で結果的に藍は保護されたようなものだった。





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