第1部 第4話 赤い小箱の秘密 3

藍の居場所を仲達から聞いて、東宮殿下からの連携命令の意味が腑に落ちた。


我が家の本拠地ではないか・・・。はて、なんでそんなところに拉致されたんだろうか?


父の抱えている案件の方に藍が…?と考えている最中に仲達がいった。


「妓楼の持ち主は、礼部尚書直轄の藩黄だ。異国人のためによういされた妓楼だ。私は、異国のスパイが宮中に入り込んでいると思いその上、密使が奥司書まで入り込んでいるはすだと。これは一大事だとお知らせしたつもりだったんだ。なのに、月涼と動けのみだ!」


頭の中で思案しながら仲達に質問を重ねることにした。


「一応なんですけど、仲達殿は東宮殿下直轄密使の方で合ってますよね?」


連携をとる以上きちんと聞いておかないとぼんやりと分かっている推測の範疇では動けないしな。よく似た違う部門でした~なんてことになると困る。話してもよい範囲がかなり変わるから。


「そうだ。」


と勢いよくいう仲達に月涼は、ふっと笑いそうになった。(あー御簾越しでよかった)


月涼は、まず、藍の拉致された場所が我が家の本拠地であることを説明した。


当然、本拠地だということは、東宮殿下も知っているわけである。


「問題は、なぜ、藍が拉致されたかに変わりましたね。もしかすると小箱と関係ない別問題での拉致の可能性も出てきました。父に直接聞いてみましょう。我が家は、お互いの案件にあまり拘わらないようにしていますので、私も現在の父の案件を知りませんから。明日の奥司書での仕事を片付けたら妓楼に向かいましょう。それで、良いですか?仲達殿」


「いや、待て、この件は、分かったが他の説明は・・・どうなっているのだ。中人とはなんだ?」


と食い気味に説明を求め始めた仲達だったが月涼にさらっと言いくるめられて帰ることになった。


翌日、奥司書での仕事中に仲達がやってきた。


「今日、どうすれば良い?」


と聞いた後、筆談を始めた。なにせ、どこに目と耳があるかわからない状態だからだ。


月涼は、暮れ6の鐘が鳴る前に妓楼でと書いた後、筆談ではなく言った。


「仲達殿、その格好のまま来ないで下さいよ。」


うなづいて、その場を去る仲達に月涼は、少しの不安を覚えていた。


なんか変装とか苦手そうだよな~。ガタイも良いから女人への変装は無理だし・・・


仲達の背丈は、6尺(185センチ)ほどあるのでかなりの長身である。


武人らしくがっちりした体格で手足も長かった。目はやや切れ長で大きく鋭い為、睨まれたらかなり怖いだろう。顎髭は伸ばす努力をしているものの薄くて伸ばせないので困っているらしい。


怖い目がなかったら女人にも持てる顔だろうなと月涼は思っていた。


ちょっと狼っぽいな・・・


妓楼の前の茶店に先に来ていた月涼は、思っていた。


多分、普通に着替えただけで来るんだろうな。折り上げ巾だとまずいな・・・と思っていたので笠は用意しておいた。案の定、顔がわかる風体で、私は仲達です!と言わんばかりの格好である。


仕方なく茶店に呼び寄せ笠をかぶらせ刀を短刀に変更し扇を持たせた。


「おい。刀はどうするのだ。」


と怒る仲達にあきれながら言った。


「預かりますよ。妓楼に遊びに行くように見えないでしょ。それから、一緒には入らないので妓楼の中で待ち合わせますから。」


月涼は、仲達に妓楼へ一人入って『涼娘娘』を呼べと言って別れた。


実は、仲達一人で妓楼に入ったことが無かった。


とりあえず、上官に連れられて何度か入っただけだったのでどうすれば良いか分からない。


普通の妓楼よりランクが上の妓楼の為、呼び込み役もおらず、どうすれば良いか迷って入り口でうろうろしていた。


その頃、裏口から入って準備を済ませた月涼は、いつまで経っても呼びに来ないので、仕方なく自ら表に出て案内役に聞いた。


「背の高い旦那は、来なかった?」


案内役は首を横に振り来ていないと言うので仕方なく案内役に言った。


「多分、入り口でどうしたらよいかわからずうろうろしている武官のような体格のいいものがいるはずだからそのものに御用を伺っておいで。もし『涼娘娘』といったら私の部屋まで通しておくれ。」


案内役はうなずいて外に出向いた。


「あのー旦那様、どちらかにご用でも?」


仲達は、助けが入ったとばかりに喜んで『涼娘娘』に案内をといった。


「では、こちらへどうぞ。お待ちでございますので直接お部屋まで案内致します。」


妓楼の1階は、食事や酒をもてなす場で一般的な者も入ることが出来るようになっている。


ちょっとした密談もできるような囲いの席もあり、特別な者だけ2階の個室を使える。


その奥は、また別世界のお楽しみ・・・であるが。それは、おいておこう。


「涼娘娘、おいででございます。」


「どうぞ」


部屋に入るとほのかに甘く香、白檀の香が焚かれていた。淡い帳がありその奥に月涼がいるようだった。


「すまん、月涼。一人で妓楼に立ち入った事がなくてな・・・」


はははと苦笑いしながら帳の奥へ入ってきた仲達であった。




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