第1部 第2話 赤い小箱の秘密

今回の出仕で言い渡された処理は、先々帝時代に出された上訴文の中にある一文を探せというものだった。


膨大な上訴文の中から採択されたが公表されなかった為、歴史に埋もれたものだ。

公表されなかった理由は、いくつかあったが、皇室の問題であり、結論としていうと廃妃となるはずの皇后が亡くなってしまい必要とされなかったからだ。


とはいえ、口伝えなので、本当にその一文があるのか?があやふやなところだ。

そんな理由と現東宮の即位反対派の反撃を阻止するための必要上秘密裏にとなったようである。

今回もこの時のような状況に皇室があるらしく・・・東宮からの直々の依頼が来たらしい。


「なんでもいいけどもっと整理できなかったのかな奥司書は、皇室の記録ばかりで公にしないことも多いからってこの荒れようはないんじゃない・・・」

いつものぼやきが口をついて出てしまう。


とりあえず、埃と蜘蛛の巣はとれたから、年代別だなと思いスペースを開けたところに移動を始めた。

3代前のものは竹書簡が多く、カビで見えにくくなっているものも多い。

どうしても読みにくいものは、写しを作成することも依頼されている。

これじゃ、毎日夜更けに帰るのが普通になりそうだな・・・

この保存状態で、だいたい見つかるんだろうか?と小首をかしげてしまった。


ドン、どさっ・・・音を立てて上に合った書簡が頭に降ってきた。

その書簡に雑じって、小さな箱がでてきた。

何だ?この小箱・・・開けて見ると翡翠の指輪が2つ重ねてあり赤いひもでくくってあった。


その、箱の中から短冊文もでてきた。

「東風吹く世に青海の華咲き相まみえん・・・西寧美」

恋文?・・・えーっとどうしたものかな。


「なんだ、それは、?大きな物音がしたからと門番が私に伝えに来たから来てみれば。」

振り返るとそこには上官の仲達殿が私を見下ろしている。

びっくりした~臓腑に悪いよ・・・この人。

「はあ、突然、上から書簡と共に降ってきました。先々代のものでしょうか?」

「いや、どうだろうか?古いのは確かだがな・・・だがここに入れるのは中書省でも通符を渡されたもののみだ。」

「では?誰でしょうね。」

「とりあえず、元に戻すほうが良いのでしょうが・・・如何せんこの状況で。」

仲達殿は辺りを見回した後つぶやくように言った。

「ふむ。忍び込むものがおるのならとらえねばならぬしな。そなた、ちょっと餌を撒け。」

「餌と言われても、大きくなったら私の存在が・・・」

ここへの配属は、一時的な処置で有り部署にいるものしか知らないように配慮されている。


「大丈夫、外におるだろう。」

というと仲達殿は、外に目配せた。


「なるほど・・・藍ですか。じゃ、もう一度大きな音だしてください。仲達殿。」


ドン・ドン・ドン。ガシャン!


「なんでしょう仲達殿!今度は、書簡と共に小箱が降ってきました!!赤い小箱です。」


「月!!大丈夫なのか?仲達様大丈夫なのですか?」

中の様子を気にして聞き耳を立てていた藍が素早く反応する。


ちょっとおしゃべりなところのある藍を利用させてもらおうという算段だ。

藍に顔を見せて、大丈夫だといった後

「藍、奥司書でのことは、誰にも話しちゃだめだぞ!お前、酒飲むとペロッと話すから」

「分かってるよ。それに、『箱が降ってきた』しか聞こえなかったし。そんなこと気にするやつ居ないよ。」

「まあ。そうだな箱が降ってきただけだからな。」

わざとらしく言ってその場を終わらせる出来事があって、すぐの事だった。


餌にかかった客人がやってきたようだ。


あのあと、書簡とともに整理棚を掃除しよく似た小箱をわざとよく見える窓際において置いた。


すり替えられることも考え小箱に細工もしておいた。

触れば、少しの間消えない塗料を施しておいたのだ。

案の定、小箱は盗まれていた。本物は、仲達殿が保管している。


仲達殿に早速報告してから奥司書の整理を始めることにした。


ここから先は、仲達殿が探すんだろうし、私の案件とは関係ないしなと思いながら小箱のそばに落ちていた書簡を整理することに専念していた。


「月涼、月涼、おるか?」

「そんな大きな声で呼ばなくともいますが。」

どうして私の周りは声がでかい人ばかりなのだろう。耳が痛くなる。


「仲達殿、何かわかりましたか?」

「いや、わからん。」

「えっわかったから来たんじゃないんですか?」


「違う。だが、門番がさらわれた。といよりさらわれるのを見ていた。」


「えー!!なんで助けないんですか?あなた、隠しているけど武官ですよね?」

ついあせって、口走ってしまった。

「おい」一言だけ仲達殿、それ以上口外するなの目である。

危ない、自分で首をしめるとこだった・・・


「すみません。それで、藍はどうなりましたか?まさか、そのままではないですよね?」

黙ったまま、外を指さしたあと筆談の合図が出た。

適当なことを話しながら、事の成り行きを聞いた。


藍は、昨日、私との食事後に拉致された。

仲達殿は、藍に接触するものがいないか見張りをつけていたらしいが接触ではなく拉致されたということだ。

助けるよりも、拉致したものを調べるほうが良いと泳がせている最中だと。


「あ、あの~ですね。で、藍は無事なんでしょうか?一応、知己でございまして、安易に巻き込んだのはちょっと・・・」

と小声で聞いてみる。


「大丈夫だ。今のところは・・・」


仲達殿・・・口数少ないのは分かって来たけど・・・もう少しね~。


藍ごめんなとぼやきながら、場所を変えて藍奪還と黒幕を抑える作戦が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る