異世界救済請負人マロニー 〜勇者、おたくの世界に派遣します〜

きさまる

召喚勇者はマロニーと出会う

第1話 召喚勇者はお払い箱

 誰か俺に、安多馬あてうま 洋児ようじに、この目の前の状況を説明してくれないか?



 高校生の俺は、学校帰りに白い光に包まれて異世界に来たらしい。

 それは西洋風の神殿っぽい雰囲気な石造りの部屋と、ソレっぽい神官や巫女が王様と一緒に俺に頭を下げていたので何となく分かった。

 予想通り「魔王を倒してこの世界を救ってくれ」とお願いされたのも。


 頼んできた人の中には巫女長を兼任しているという王女様もいた。

 小柄で童顔な可愛らしい顔の彼女が目をウルウルさせながら頼んできたので、俺は「任せてください!」と即答しそうになった。

 いや、露出がやたら多い王女様の衣装に目が奪われていた訳じゃないぞ?




「ストーーーップ! はい、その契約待った!」



 その時、物陰ものかげから突然男の声がかけられて、俺は返事のタイミングを潰されてしまった。

 俺がそちらへ目をやると、神殿の太い柱の後ろから一人の男が歩いて来ている。

 めっちゃ怪しげな格好の男が。


 その男は濃緑色のビジネススーツを着ていた。

 まぁそれは良い。

 だけれども両手に黒い革手袋をはめているのはなんなんだ。


 髪だってビジネスマンらしくもなく、ボサついた金髪を頭の後ろで無造作にくくっている。

 ついでに右目に眼帯まで付けてるんだよ。

 どこの厨二病をこじらせた痛いオッサンなんだ。


 あ、よく見たら靴も運動靴じゃねーか。

 黒い靴色だからすぐに分からなかった。

 ん? 顔も思ったよりも若い感じだ。

 オッサン判断して悪かったな。


 だけどもコイツはとんでもない事をいきなり言い出しやがった。

 オッサン扱いを心の中で謝罪して損したぜ。



「王様、そんな頼りないヤツよりも、もっと勇者に適任な人材を私が紹介しますよ」


「は?」


「なんじゃお主?」



 俺と王様がそう同時に声をあげたのも無理はないだろ?

 いきなり俺の存在を全否定だぜ。

 ついでに王様達の召喚の苦労も全否定だ。


 だけどコイツはそんな俺たちにお構いなし。

 突然ここへ割り込んできた怪しい男は、自分が出てきた柱の影へ顎をしゃくった。


 やって来たのは女の子。

 黒髪ボブカットで、大人しそうで真面目な感じのタイプ。

 目の力強さを除けばね。


 だけれども問題はそこじゃなかった。

 その女の子、全身をきらびやかな武具に身を包んでいたんだ。

 鎧や剣が薄く発光してて、何も知らない人間が見ても魔王を倒す直前の最強の最終装備だって分かる。


 え? もうこの子が先に魔王の討伐クエストを進めていたって事!?

 じゃあ何のために俺が呼ばれたんだ……。



「ご覧の通り、彼女はすでに魔王を倒す準備は万端です。そこの、素質はあるけど実践経験ゼロの者より魔王を楽に倒せますよ」


「なんだとオッサンもう一度言ってみろ」


「勇者として召喚される程度には素質はあるんだ。君だって彼女との実力差ぐらい、少しは感じてるんだろ?」



 言われて思わず彼女を見つめた。

 視界に彼女のステータス分析結果が現れる。

 あ、良かった。解析チートが身についていたよ。



 与志丘 優子:レベル99


  力  :99

  体力 :99

  魔力 :99

  精神力:99

  ツッコミ力:99

  HP:999

  MP:999

  固有技能:再生リ・クリエイト、デバフ無効、危険察知、ボケ察知、ツッコミを入れる際の攻撃速度130%増加


 装備


  頭 :輝きのティアラ

  鎧 :神々の鎧

  手 :迅速の小手(ツッコミ特攻付き)

  足 :神速の具足

  武器:エターナルフォースホワイトブリザードブレード



 ヤバい、文字通りレベルが違う。

 なんか変なスキルも見えたけど。

 俺のステータスを呼び出したら、案の定レベルは1で、力とか魔力とかヘッポコプーだった……。

 彼女に「戦闘力たったの5、ゴミめ」と冷たい目で見下されても文句言えない状態だわ、コレ。



「うん? その様子だと分析用のチートでも身に付いていたのか、キミ」



 怪しいビジネススーツの兄ちゃ……いやオッサンだ、オッサンという事にしとく!

 そのオッサンが、チートを使っている俺を見透かしたように声をかけてきた。



「うえっ!? 何で分かるんだよ!」


「俺は仕事柄、チート持ちに遭遇する機会が多いからな。君の仕草で何となくな」



 くっそう、悔しいがこの兄ちゃ……オッサンの方が何枚も上手うわてだ。

 オッサンと女の子は俺に背を向けると、王様と交渉を始めた。

 やがてふところから書類を出すと、机の上に広げて何やらサインをさせようとしている。

 そんな光景を眺めていた俺の背中に、突然ゾクリと悪寒が走った。



「なんだ? 何かここにヤバいのが来る!?」


「なんですって!?」



 露出が多すぎる衣装で目のやり場に困る王女様がそう返す。

 すぐにこの場の空気が重苦しく邪悪なオーラに満たされていくのを感じた。

 俺はその邪悪な気配の中心に目を向ける。



「ぐふふふ……。召喚魔法の気配を感じたので様子を見に来てみれば、異世界の勇者を呼び出したとはな」



 邪悪な気配の中心にあった黒いモヤから、デカい人影が現れた。

 いや、人影と表現して良いのだろうか?

 牙の生えたドクロのような顔、額から生えた角、黒いマントの下には四本の腕。

 いやちょっと待って、この紫の肌のマッチョマンはもしかして……。



「ようこそ別世界よりの客人よ! わしを倒せと、な人間の王にそそのかされた愚かな勇者よ! この魔王を、ままごと遊びで楽しませてくれる者の顔を見に来てやったぞ!!」


「魔王! 何故ここへ現れることが出来るのです!? 神殿には固い結界が張ってあるのに!!」



 王女様が青い顔でそう叫ぶ。

 うわお、やっぱり魔王だった!

 てか、解析チートでステータス覗いてみたらレベルが999って!?


 体力とか魔力も軒並み999になってるよ!

 え? さっきの与志丘って女の子でも勝てないんじゃないのコレ!?

 あ、案の定だ。魔王に気が付いた与志丘さんが、見るなり顔が一気に青ざめたよ!


 やべえよやべえよ!!



「ははははは! この児戯じぎのような結界で儂をさまたげようなどと笑止千万! 愚かよのう!」



 ……と思ったら、さっきのオッサンは王様と話し込んでいて魔王に気が付いていないようだ。

 いや、危機察知能力が低すぎるだろこのオッサン!!

 魔王も、話し込んでいる王様とオッサンに気が付いて目を細めた。



「ふむ、この魔王を前に顔を向けぬ不届き者がおるようだな。儂の存在にも気付かぬ愚か者め、まずは貴様から血祭りにあげて──」


「あ~はいはい、いま大事な報酬の話をしてる最中なんだ。忙しいからあっち行っててくれ」



 魔王のセリフをぶった斬ったオッサンは、顔を向けることなく右手を振った。

 しっしっと追い払う仕草で。

 女の子が慌てた様子で「マロニーさん!?」と声をかけてたけど、当たり前だ。

 どう考えても魔王を煽っているようにしか見えねえよ!!


 女の子にマロニーと呼ばれたオッサンは相も変わらず王様と交渉しようとするが、王様も魔王に気が付いて話をするどころじゃなくなっている。

 そして魔王もオッサンの態度にブチ切れているのが気配だけでもガンガンに伝わってくる。

 やっべえええええええっっっ!!!!



「ふ、ふふふ……こ、この儂をコケにしおって。まったくヒトをイライラさせるのが上手い奴だ。いいだろう、今すぐこの国を滅ぼしてくれる! 今日がこの国の命日だ!!」



 魔王が両手をあげると、上に光り輝く球が現れた。

 やべえやべえ! すげえエネルギー量だよあれ!

 魔王が言った通り、国がひとつ消えてもおかしくないヤバさだよ、あれ!!



「死ね! この儂をコケにしたことを地獄で後悔──」


「うるせえええええ!! 話の邪魔をするんじゃねぇボケがあああああああああああああ!!!!」



 いつの間にか右手に日本刀を握っていたオッサン。

 その日本刀が白く光り輝き、オッサンの腕が振り下ろされる。

 刀の軌跡をなぞるように光る刃が魔王に向かって飛ばされた。


 ……え、ちょっと待って? いまの飛んでったエネルギー量って、魔王のヤツより更にめちゃくちゃ凄……



 ズドォォン!!!!



 凄まじい閃光と爆風。それと共に野太い叫び声。

 俺は思わず床に伏せた。

 王女様と、あの与志丘って女の子も。



「……あ」



 間の抜けたオッサンの声。

 頭を上げるとそこには邪悪な気配はどこにも無く、神殿の壁にデカい大穴が開いているだけ。

 そのとき初めて真っ青な顔になったオッサン。



「え? 今の魔王の分身とかだよな、倒してないよな与志丘さん!?」



 床に転がっている女の子にそう悲鳴をあげるオッサン。

 声をかけられた与志丘って女の子も顔をあげてしばらく固まっていたが、ため息をついて首を振った。



「駄目です、この国から邪悪な気配が消えてます。さっきので魔王を倒しちゃったみたいです! マロニーさんが!!」


「ええええええええええええ!?」



 青い顔のオッサンは、ギギギと王様に首を向けた。

 そして、恐る恐るといった感じで話しかける。



「あー……えっと王様、魔王を倒した報酬の件なんですが……」


「よくぞ魔王を倒した異界の勇者よ! 我が国はそなたの雄姿ゆうしを永劫に語り継いでゆこうぞ!!」



 しれっとした顔でそう返事をする王様。

 あ、支払いを踏み倒す顔だ、アレ。



「あの、魔王を倒したことによる国防のコスト削減で浮いた国費から報酬をですね……」


「末代まで語られるほまれこそが金銀財宝にもまさる戦士の財産! くらの宝よりも身の宝! 光栄に思うがよいぞ!」


「報酬……」


「マロニーさんのアホー! 交渉前に魔王を倒してどうするんですか!!」



 与志丘さんに怒られて、ガックリ床に四つ這いになるマロニーと呼ばれたオッサン。

 そのうずくまるオッサンに涙目で罵声を浴びせ続ける与志丘さん。

 晴れやかな顔で勇者の栄光を褒めたたえる王様と王女。





 誰か俺に、安多馬あてうま 洋児ようじに、この目の前の状況を説明してくれないか?

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