リソスフェアフォーミングと、洗脳と教育の違い

 惑星の地表に存在する資源は惑星内部に存在する資源とは比べるべくもなく少ない。

 惑星を開拓し、資源を採取しそれをギルドに売り払う。

 この事を目的とするならば、当然地下の開拓をする事になる。

 だが、無計画に地下資源を獲得しようとすれば、その結果惑星の内部に空洞が出来上がる事になる。

 それをそのまま放っておけば崩落の危険が有る訳だ。

 そういった危険性を回避すると共に、出来た空洞を有効活用する目的で行われるのが、リソスウィアフォーミングだ。

 リソスフィアフォーミングとは、惑星の堅い岩盤層、所謂プレート部分の惑星開拓を指す言葉で、地下版のテラフォーミングだとでも思ってくれれば良いだろう。

 現状ピオニアが降り立った惑星ゼイトゥンⅢの地表面は、人型生命種の生存に適した環境下に置かれ様々な種族が繁栄している為、惑星地表面の開拓より地下部分の開拓を優先させた形になる。

 現在の環境に対してこの判断を行ったと云う事もあるが、実際判断をするに大半の比重を持っている理由は他にある。

 より確実にこの惑星の文化に干渉出来るだけの地力を付ける事である。

 現状のピオニアの勢力規模では、技術では圧倒しているものの、どう足掻いても物量で負けてしまうのが現状。

 秘密裏に事を運ぶにも何処かで露見する事は目に見えていた。

 その為、ピオニアは此方も物量を用意する事にしたのだ。

 地下資源の確保と、秘密裏に圧倒的な差をこの惑星の文化との間に設ける為に。

 だが現状、アーデンの森のエルフには、森の中に得体の知れない壁を創り出す何かがいる事が知れてしまっている。

 当初の予定では、森の中でひっそりと拠点を構え、地下をじっくり開拓しながら力を貯め、それと並行して情報を集める予定だったのだが、予定を変更せざるを得ない状況になってしまっている。

 今はまだクル氏族の部落に住まうエルフとハイエルフのみにその情報が渡っている状態だ。

 その為ピオニアはこの段階で情報を堰き止めるべく動き出す。

 そこで着目したのが現状のアーデンの森のエルフ達の社会構造だ。

 ハイエルフをクルと呼び神格化し、それを信仰の対象として据える事でアーデンの森の各氏族は纏まっている。

 宗教で纏まった組織は堅牢だ…だが、信仰対象であるクルが現実世界に存在しているのが彼等にとって仇となった。


 現在のクルは十三人、この十三人をどうにかすれば、信仰の名の下に如何様にも出来る。

 後はイレギュラーな存在、例えば信仰心が薄いものや違和感を抱いた者に個別対応をしていけば良い。

 まずピオニアが行ったのは汎用人型不可知化偵察機の増産と、外部入力タイプの学習装置の生産だ。

 人が持ち運べる程度のサイズの学習機能装置を十三人分用意。

 学習装置の中では簡易型に当たるこの小型の学習装置は出力が小さい事が難点だが、逆に言えば徐々に徐々に学習をする事に長けているとも言える。

 十三体の汎用人型不可知化偵察機は、四六時中ハイエルフ達に張り付き、隙あれば彼等を強制的に学習させていった。


 世の中にはちょっと視点を替えるだけで別の言葉で言い表せる事柄が沢山有る。

 毒と薬、痛みと快楽、そして洗脳と教育。


 ネートはハイエルフ全体の教育状態をモニターし、自身の子供同然の存在である不可知化偵察機に搭載された機械知性体へと指示を送る。

 より効率よく、より自然な形で教育が進行する様に。


 ネートはピオニアに対して優しい、その優しさはこの惑星のハイエルフに与えられた。

 そうこれは優しさだ。

 ピオニア…

 自分が仕える素晴らしい存在へ、仕える事が出来る様にするという、優しい優しい教育だ。

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