祝いの途中で
中学3年の冬、友達のまさたけくんが、私立の高校を受験した。
僕は受験していない高校。合格発表は2月。まさたけくんが合格した時のために、僕は、ちょっとした仕掛けを用意した。
紙吹雪。折り紙を切って作った。
でも、合格した人もいれば不合格になった人もいるだろうから、あからさまに紙吹雪をするわけにはいかない。そこで、紙吹雪をするみんなの死角をあらかじめ見つけていた。屋上へ通じる階段の踊り場だ。ここなら、屋上に用事がある人しか来ない。大丈夫だ。そして、なおかつ紙吹雪を素早く撤収するために、使わないカーテンが学校の倉庫にあることも確認していた。これを敷いて、紙吹雪をして、素早く畳めば誰にも見られずに紙吹雪の祝福ができる。僕は天才だ。
その企画を考えてから合格発表まで、早く紙吹雪をしたくてしたくてたまらなかった。そして、まさたけくんが合格することを、真に、切に願った日々だった。
長い長い合格発表までの日々がやっと終わり、ついにまさたけくんの高校の合格発表の日がきた。結果は合格。
その知らせを聞いた僕はさっそく計画を実行に移した。
「まさたけくん、こっちおいでよ。」
「何?」
屋上へ通じる階段の踊り場へまさたけくんを連れていく。さっとカーテンを床に敷き、踊り場に前の日から仕込んでおいた紙吹雪の入った箱をまさたけくんに見せる。まさたけくんは僕が準備した仕掛けを察し、理解したようで、カーテンの上に載って、万歳をした。
「おめでとうーっ!」
紙吹雪を撒く。
「やったー!わーい!」
まさたけくん、喜んでいるようだ。よかった。もうすぐ紙吹雪が終わる。さあ、あとは、速やかに撤収するのみだ。
「そこでなんばしよっとね!」
振り向くと、先生。まさたけくんはとっさに敷物のカーテンを下りる。
「まさたけくんが合格したのでお祝いをしてました。」
「落ちた人もいるっちゃけん、そういうことしたらダメやろもん!」
「いや、だから、誰にも見えないところでやってたんですけど。」
そういう気配りはあったかもしれないが、先生としては注意しなければいけないようだ。
「落ちた人に気遣いば、せにゃもんばもん!」
「気遣いしてるからここでやってるんです!」
「散らかるやろもん!」
「ちゃんと散らからないように敷物引いてやってます!」
「・・・とにかくやめっ!」
「あっ!」「えっ?」
先生はなぜか両足揃えてピン立ちでエビのポーズみたいな姿勢で床に敷いていたカーテンを引っ張り、上にあった紙吹雪を床に落としてしまった。床に散らばる紙吹雪。
先生はカーテンを引っ張る際に「にぇっ!」と言葉のような音のようなものを発してその場を去って行った。「なっ」と「めっ」が混じったような声のような音のような。今考えると、ロシア人がロシア語でノー、「ニェット(Нет)」で強く否定する発音に似ていたな。とにかく先生は捨て台詞のような音を出して去っていった。
なんでわざわざ散らかされたんだろう。あと、つくづく「にぇっ!」って何なんだ?テンション下がって二人で紙吹雪を掃除しながら。
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