使い勝手の良いアプリ
X国の国民はとてもおおらかで優しい人々だった。
特に気配りにおいて他の国々の追随を許さない。
友人の家に遊びに行ったときは、手土産を忘れずに持参する。
そして必ず一言「つまらないものですが、よければどうぞ」と添えて渡すのだ。
他にも彼らは、周りに同調する独自の習性を持っていた。
「何か意見のある方は挙手して下さい」とアナウンスがかかると大抵の者は手を挙げず、個別に時間を見つけ質問するという変わった動きをみせるのだ。
ある研究者は「その国は島国であるため、独自の文化を形成したのだろう」と論文にまとめていた。
X国では現在、大変流行しているアプリがある。そのアプリの名前は「ワラシベ」
「ワラシベ」はネットを経由して誰もが手軽にモノを売り買いできるフリーマーケットアプリだった。
「わ‼︎ 私の好きなブランドの服がこんなに安くなってる!」
この女性も「ワラシベ」で自分の好きなブランドの服を安く買う常連だ。
女性は今見ている服を即決で買った。
安いのはもちろん、写真を見る限り目立った汚れや傷など、使用感がなかったのが購入の決め手になった。
それから1週間もしないうちにその商品は届いた。
ダンボールに入った商品は、プチプチ潰したくなる梱包材に包まれ丁寧に収納されていた。
女性はダンボールから服を取り出し、汚れなど傷がついていないかチェックする。
「うん、うん。このブランドがこんなに安く手に入るなんて!」
「ワラシベ」で購入した商品に満足し、服を売りに出した提供者に星3つのレビューを付けた。
こうした取引はX国、全体で行われている。大抵の取引レビューは、提供者の気配りもあり、星3点満点で2点以上を獲得していた。
「我が社の業績も右肩上がり。そろそろ海外に進出してみるか」
ワラシベの社長は役員会議でそう切り出すと、満場一致で海外進出が決まった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「な、なぜだ。」
社長は落胆の表情を浮かべる。
結果から言ってワラシベの海外進出は失敗したのだ。
海外でのレビューは以下の通りだった。
「イメージ写真を見て買ったが、写真にない傷が付いていた。2度と使用しない。」
「全く別の物が入っていた。こんなガラクタいらない。金返せ!」
提供者と購入者がやり取りするシステムは一見して完璧だ。
しかし、そのどちらもが嘘を付いていない場合に限られる。
外国では売りに出した商品と現物が違ったり、配送後に未払いが発覚したのだ。
何より多かったのは、
「商品の写真を取ったり寸法を測ったり、商品説明にすごく時間と手間が掛かった、それに梱包まで自分でやらせるなんて!」というX国ではまるで想定していない不満だった。
そう、フリーマーケットアプリは、X国の国民性があってこそ成り立つシステムだったのだ。
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