手書きの重み

 今時、手書きの手紙というのは時代遅れだと言われるが、実際に手紙を貰うと嬉しいものだ。

 やはり、なんでもパソコンやらスマホで済ませる社会なかであえて手書きというを加えることが想いを伝える上で重要なのだろう。


 それに人間は五感で情報を認識する。それは触るであったり、見るであったり、匂いを嗅ぐということ。

 電子メールは目で見れど、触ることは出来ず、匂いも発しない。けれど手紙はどうだろうか?手紙の内容によって紙の質を変えるだろう。ザラザラした紙、ツルツルした紙、人間の指先は繊細でこれだけでも相手に与える印象は大きく変わる。それに人間は嗅覚で記憶を思い出すという。手書きの手紙は書き手の匂いが込もる。時間をかけて書いた手紙は書き手の手に長く触れ、書き手の匂いや家の匂いが染み込んで電子メールでは与えられない効果を生み出せる。「視覚は電子メールも同じでしょ。」と考えるかも知れないが手書きの手紙は、その人にしか出せない筆圧と癖のある文字で構成されている。だから内容によっては文字と一緒に温もりを与える事ができるのだ。



 ……それで、どうして私がこんなにもツラツラと手紙について持論を述べているかというと、勿論私も今現在紙とペンで文章を書いているからだ。私の想いを伝える為に、一文字一文字丁寧に。

 特別私は字が綺麗ではないけれど、さっき長々と話した通り、手書きというのは電子メールと違い書き手の思いが込もる。


 不器用ながらに書いたそれを私は何度も読み直す。字の間違いはないか。表現におかしな点はないか。受け手に間違った捉え方だけはされたくない。


 何度も読み直して、私は一呼吸置いて決心する。


「そろそろ時間だ」


 私はそれだけを呟いてさっき書いた物を胸ポケットに入れて家を出た。


 ____


『今朝方、都内で男性がビルの屋上から飛び降りました。』


 テレビに映るアナウンサーは、印刷された原稿を淡々と読み上げた。


「男性は死亡が確認され、現在事件性があるか警察による捜査が行われております。……次のニュースです」


 飛び降りがあった現場では、アナウンサーが読み上げた通り警察が捜査を進めていた。


「今回の件、事件性はありますかね?」

 若い警官が先輩に聞いた。


「どうだろうな。まぁ…俺たちは鑑識やらなんやらが、しっかり現場検証できる様にこのロープから先に人を入れない。それが仕事だ。」


「はぁ〜。僕てっきり警官になれば、事件の捜査とかやれるもんだと思ってましたよ」


「そりゃ、刑事の役目だ。それにお前はドラマの見過ぎなんだよ」

先輩がそう言うと、後輩警官は「えー」と口を尖らせ、「ダイイングメッセージとか現実であると思います?」と冗談めかしく聞いた。それに対して先輩はやれやれ、という風に笑う。


それから十数時間が経過し、またあのアナウンサーが原稿を読む。

「昨日、都内のビルから飛び降りた男性は警察の調べにより自殺であると断定されました。男性からは遺書と取れる内容が書かれた文章が見つかり、男性のが書き綴られていました……」



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