メリクリぼっちマス

 見知らぬ男が家にやってきた。

 恰幅のいい男だった。

「誰だ、お前?」俺は突然の事で震えた声が出る。


「サンタだ」

 目の前の男はニコリと笑って言った。


「サ……サンタ?」

 もしサンタなら合点がいく。

 今は深夜でクリスマスイブの夜。

 玄関の鍵はしっかりとかけられ窓だって閉めていた。煙突こそないが、そんな状況から家に入れるのはサンタをおいて他にいない。

 いるはずがない。

 断言できる。


「ほ、本当にサンタ?」

 俺は今年で25になるのだが、興奮を抑えられずにいた。子供の頃信じていた人物が目の前にいる。

 よく見ると赤い服に帽子を被り、大きな袋を持っていた。


「フォッフォッフォッオー」

 男の笑い声で確信する。サンタだ。目の前にいる人物は子供の頃ずっと夢見たサンタだ。


「どうしてサンタがウチに?」俺の質問にサンタは「プレゼントをね……」と、含みながら後ろに置いた大きな白い袋をガサゴソしだした。


 俺は期待で胸が膨らむ。

 クリスマスイブの夜を一人寂しく過ごし、クリスマス当日の明日も予定があるわけではなかった。

 世間じゃクリぼっちなんて呼ばれるやつだ。

 少し前まで彼女がいたが別れた。

 相性が合わなかったというか、彼女の想いが強すぎて俺は引いていたため強引に別れを告げたのだ。

 プレゼントを戴けるなら、理想の彼女なんかがいいなぁ……なんて、淡い期待で胸が膨らむ。


 サンタは袋をガサゴソし終えたあと俺の方を向いて「プレゼントをね、」の続きを言う。


「プレゼントをね、調達しにきたんだ」

「え?」プレゼントを調達?……渡しに来たんじゃなくて?


 サンタの手にはチェーンソーが握られていた。 

 え? プレゼントの箱は?


「フォッフォッフォッオー」それを合図の様にチェーンソーのエンジンを引いた。

 ブン!と、チェーンソーの刃が回り出す。


「いやいやいや……待って、待って」なにこれ?なにかの冗談?あぁ、そうだドッキリだ。テレビの企画だ。毎年恒例の明石家ヨンタの企画。不幸自慢をしてクリぼっちを乗り切る番組。あれの企画だ。俺はその番組に自分の不幸自慢を投稿していた。『最近別れた彼女がストーカー気味なんです』と。

 きっとそれで、番組が何か仕掛けてきたんだ。


 けれど、俺の期待は一瞬にして崩れ去る。

 サンタがチェーンソーを振り下ろすと、机が真っ二つに割れた。俺は腰が抜けてその場に倒れ込む。目の前のサンタをもう一度よく見ると赤い服に違和感を覚える。その服は返り血で染められた色だった。


 ブォーン、ブォーンとチェーンソーは、いきり立っている。床が暖かい。あぁ、あまりの恐怖に俺は失禁してしまった。もう、何が何だか分からない。なんでサンタが……子供の頃の憧れがどうしてこんなこと。


「まだ3軒目なんだ手こずらせないでくれ。またトナカイにどやされる」俺が最期に聞いた声だった。その後、室内にボトンという鈍い音が一つ鳴った。


 次の日の朝、どこの局でも「メリークリスマス」を挨拶代わりに番組が始まった。

 とある女は目を擦りながら、枕元に置かれている箱を見て笑顔を浮かべる。

 箱は丁寧にラッピングされていた。

 女はそれを雑に破り捨てながら箱の中身を開ける。

「お帰り私のアナタ……もう離さない」


 今朝のニュースは「子供達に聞きました、サンタさんから何を貰いました?」だった。

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