結婚記念日
三年目の結婚記念日に革の財布を貰った。
確か結婚一年目の記念日は、サプライズでレストランへ連れて行かれた。
メニュー表は英語なのかフランス語なのかよく分からない単語がミミズの様にのたうち回り頭に「?」が浮かぶ。
けれど旦那は出来た人で、しっかりコース料理を予約しており注文に困ることはなかった。
ただ、強いて言うなら、出てきた料理の食べ方、
レストランを出ると旦那は少しもじもじしながら私に何かを手渡した。
「花?」
「匂い嗅いでみて。」
私は旦那から手渡されたブーケに鼻を近づけて嗅覚を尖らせる。
「わぁ!いい香り。」
その花の香りはアロマが漂った。
よく言う花の香りというよりは、嗅ぐとリラックスできる甘い匂いだった。
「それね、フラワーブーケって言うの。」
旦那は少し自慢気に話した。
なんでも結婚1周年は、
私はもう一度貰った花を見る。
花の脇には一通の手紙が添えられていた。
旦那が言うには「紙婚式だから手紙を書きましたー!」と子供らしさの残る笑顔でそれを読み上げてくれた。
……内容は読み上げる旦那も、私も頬を赤らめるもので……嬉しかった。
結婚二年目はこれまたサプライズだった。
私はてっきりまたレストランに連れて行かれるものだとばかり考えていた。が、その日私が仕事から帰ると仕事のはずの旦那がなぜか家にいて、普段絶対にしないエプロンをしてキッチンに立っていた。
「お……お帰り〜」
旦那の顔は、悪いことをしてそれをお母さんに隠そうとする表情だ。
玄関まで何かが焦げた香りが漂っている。
「どうしたのよこれ。」
何があったのか私は聞いた。
「いや、今日……結婚記念日だからちょっと……サプライズしようと思って、なんていうか料理をね、しようかなーと思って。」
「それであなたが作ったのはこの黒い固まりなの?」
「はい…ハンバーグです。」
「これは?」
「み……ミネストローネ……?」
「なんで作った本人が疑問系なのよ。」
私が指差した彼の言うところの自称ミネストローネはぐらぐらと煮え立ち、異臭を放ちこの世のものとは思えない色をしていた。
私は少し呆れ気味であったが、旦那は今日のために有給までとって部屋を飾り付けし、料理を振る舞おうとしてくれたのだ。
それを思うと怒ることなど出来ず、2人でテーブルに座り彼の作った自称ミネストローネを啜り、カチカチになったハンバーグを食べた。
味はお世辞にも美味しいとは言えなかったが、そんなこと問題じゃない。気持ちが込もっているのを私は知ってる。ただそれだけで嬉しかった。
そして、今年も旦那は例に習って私にプレゼントをくれた。
「パジャマ?」
そう、旦那が私にくれたのはペアルックのパジャマだった。
「今年は、
旦那曰く、綿婚式はもろくて頼りない綿のような2年目であることからそう呼ばれるらしい。『まだまだ贅沢をしないで、確実に家庭の基盤を作っていこう。』と言うものなんだと話してくれた。
だから今年は、贅沢をせずに手作り料理を振舞ってくれたのかと、私は一人腑に落ちた。
それから二人で後片付けをして、スマホで三年目の結婚記念日について調べようと思ったがやめた。
これは来年の楽しみにしようと思ったからだ。
____
そして三年目。
私の前には旦那が転がっていた。
あの愛すべき旦那が。
……結婚三年目。
三年目の浮気という言葉があるらしいが、全くその通りだった。
旦那は浮気していた。いつからなのかは知らないが、最近は帰りが遅く私の相手もしてくれなくなった。
脳科学的にも愛とは、三年が賞味期限らしい。なんでも、お互いを愛し合っている時にはオキシトシンと呼ばれるものが分泌されると言う。……所謂それが一緒に居たいと思わせる感情を作り出しているそうだ。他にも恋愛に関わるホルモンが活性化する事で相手を好きになるのだが、その効果も三年までなんだそうだ。
目の前には冷たい旦那が転がっている。
「浮気してるの?」と聞いた時の彼の慌てふためき様と言ったら今でも笑える。
三年経ったら、私も旦那を愛さなくなるんじゃないかって?
馬鹿ね……私は愛されている自分が好きだった。確かに私も彼を愛していだけれど、私は、私を愛してくれる人の側にいることだけ考えていた。
今だってそうだ。
一回の浮気くらい許してあげる。
でも今度は絶対私から離れちゃダメよ。
あぁ、そうそう……結婚三周年の別名は革婚式。『丈夫で、粘り強い革の様に夫婦生活を送りなさい。』そう言う
だから私は旦那の皮を剥いだ。
私は旦那を愛すし、旦那も私を愛してくれる。
三年目の記念日には彼から皮の財布を貰った。
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