基地 6

 リンダは、デュークに撃たれた男の一人の顔に見覚えがあった。

 グリフィス・ロンダールという名の男で、軍を素行不良で追放になったやつだ。実際に会ったことはなかったが、噂と顔は知っている。

「傭兵になったとは聞いてたけどねえ」

 人間性は最低だが、能力は高いという噂だった。追放処分になったほどだ。余程あくどいことをしたのだろう。そして、氷結団の首謀者のようだ。

 傭兵は海賊とは違って、必ずしも違法行為をする者たちばかりではないが、彼らのしたことは完全に違法だ。

 グリフィスは、現在意識はないので、話を聞くことはできないが、スタッフたちも彼が指示していたのを見ている。

 氷結団のメンバーはおそらく十名。

 傭兵団の編成としては、普通だ。

「ダラス、聞こえる?」

 リンダは通信機に話しかけた。

「捕まえた連中の写真を送るから、それを連邦宇宙軍に送るようにサンダースさんに伝えてくれる?」

「賞金首はいましたか?」

「パッと見た感じは小粒よ。ただ、軍を放逐された男がいるわ。叩けば埃が出るかもね」

 そもそも賞金がかかるような奴なら、リンダとデュークの二人だけで制圧はできないだろう。

「社長の腐れ縁ホットラインは使わないんですか?」

 不思議そうなダラスの声にリンダは苦笑する。

「今さら使ったところで、来ると思う?」

「いや、奴さん、絶対来ますぜ」

 ダラスは笑ったようだった。

「社長に頼られたら、絶対に尻尾ふってきますよ」

「それはそれで、面倒だわ」

 リンダは眉根を寄せる。

 ダラスの言う『腐れ縁』の相手は、リンダのかつての同僚だ。非常に優秀な男だが、事あるごとにリンダを復職させようとする。

 リンダの実力を買ってくれているのはありがたいが、リンダはもう軍に戻る気はない。

「朝になったらダラスもこっちに来て。二人だけだと休憩もできないし。あと、そっちはどんな様子?」

「サンダース氏から軍に通報して、動いてもらったと聞いております。あとお嬢さんもサンも元気ですね」

「了解」

 リンダは通信を切って伸びをする。

 不意に電気がついた。

 ライフラインの復帰に、みなの顔が明るくなる。

「さあて。残りのメンバーはそんなにはいないと思うけど、今さらラマタキオンではないわよね」

 無論、手に入れようとしない保証はないけれど、軍が来る前に逃げようとする可能性の方が高い。

「とはいえ、宇宙船に細工しに行く暇もないわね」

 リンダは肩をすくめる。逃げるやつは追いかけない。もともと便利屋に逮捕権などないのだから。

 大事なのは、今ここにいる基地のスタッフを守ることで、傭兵全てを捕まえることではない。残っている連中はおそらく二名。

 もちろん傭兵は一人でも脅威だ。ただ、いくら優秀でも簡単につかまっている人間を解放することは出来ないだろう。

「さあて。いつまでもここにこもっているわけにはいかないわね」

 リンダは基地の絵図面をにらむ。

 最小限の労力で、出来るだけ広い範囲の安全を確保したい。

──私が三人くらい欲しいわね。

 とはいえ、自分が三人もいたらさぞや面倒なことになるだろうと、リンダは苦笑した。



 翌朝。

 ダラスは猫丸号を飛ばし、基地の近くへと移動する。

 デュークほどではないにしろ、滑走路さえあればダラスは十分に猫丸号を操ることが可能だ。

 空から見る第三惑星は、緑豊かな星だ。建物があるのは、基地の周辺だけ。

 将来的にはもう少し開発されるだろうが、まだ未開発な部分が圧倒的で、この美しい風景のある星を『リゾートに』とプラナル・コーポレーションが考えたのもよくわかる。住宅地として開発したいという派閥もあるようだが、移民を募るには辺境すぎるという点が難点だ。リゾートの場合は、遠い事も一つのステータスにならなくもない。

 上空から滑走路の位置を確認する。

 その時ダラスは、衛星から見たシートがはがされて、宇宙船がそこにあるのを発見した。シートがはがされているということは、そこに誰かが行って、はずしたということだ。風でめくれたような様子ではない。

「社長、宇宙船を発見しました」

 ダラスは見えている宇宙船の写真を撮って、リンダに送信する。

「どんな様子かわかる?」

「待ってください」

 ダラスは、ゆっくりと旋回しながら、カメラを合わせる。

「あっ」

 ダラスは声を上げた。

 ミサイルだ。ダラスは高度を上げ、ミサイルを振り切る。

「ダラス?」

「攻撃されました。誰かが乗ってます」

 エンジンに火が入ったようだ。おそらく飛翔寸前だ。攻撃したのは、牽制だろう。猫丸号は宇宙船であって、空は飛べても飛行機のような小回りが利かない。一度牽制すれば、離陸する時間を稼げるとみたのだろう。このタイミングを逃したら、もう追いつけないし、宇宙軍からも逃げ延びるに違いない。

「なめやがって」

 ダラスはレーザーの照準を合わせる。

 いつもは攻撃も操縦もデュークの仕事だが、ダラスの腕も一流なのだ。たった一度の牽制で時間が稼げると思ったら大間違いである。

「留守番ばっかりではね。少しは活躍しないと」

 レーザーが命中して、大きな爆発が起きた。

「ダラス?!」

 爆発音に驚いたのだろう。リンダが通信機の向こうで叫んでいる。

「こちら猫丸号。社長、宇宙船を沈めました。これより着陸態勢に入ります」

 ダラスは爆発の煙をちらりと見ると、操縦かんを握り締めた。


 

 


 

 

 

 

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