第41話 ワンコと追いかけっこにゃん

「しまったーー、猫の姿で来るんじゃなかった!!」


 犬の首輪切断事件に、ゾーオが関わっていないかの調査中の事だ。

 その調査中、早速俺は一匹の犬に追いかけられていた──。


「最近ではこの体にも慣れたとは言え、生まれながらに猫やってるわけじゃないんだ。勘弁してくれよな!!」


 歩行者道路を、全力でダッシュで逃げまわる。

 俺を追いかける犬は、まるで玩具でも前にしているかのように「ヘッヘッヘ」っと、興奮している様子だ。


 くそ、楽しそうな顔で追いかけてきやがって!


 しっかり見る余裕はないが、犬種はシベリアンハスキーだと思う。

 って、思いっきり猟犬じゃねぇか!!


 犬と猫では、体格も筋肉の総量も違う、長距離直線では分が悪い。

 俺は小回りを効かせ、右へ左へと交差点を曲がりつつも東へと向かっていた。

 正直どれぐらい逃げ回ってるかは分からないんだけど、多分数キロ単位は走っている。


 しかし猫の身体能力と人間の知性が合わさった逃走だ。

 そろそろ撒いて……。


 俺は走りながらも、恐る恐る後ろを振り返る。


「増えてるぅぅぅ!?」

 

 さっきまで追いかけて来ていた犬とは別に、さらにもう一匹の犬が我先にと俺を追いかけて来ていた。

 犬種は──もうわかんねぇ! 見てる暇なんてあるか!!


 このままでは、走って振り切れる気がしない!

 特に途中から参戦の犬なんて、元気いっぱいな訳だし。

 そんな事を考えていると、目の前に路上駐車中のセダンが見えた。


「あれだ!!」


 俺はスピードを殺すことなく、その車のボンネット、そしてルーフを足がかりに、ブロック塀に飛び乗った。


「あ、危うく犬達の玩具になるところだった」


 ブロック塀の下から、よじ登ろうとしながら吠え散らかす二頭。


 流石に車に飛び乗ったりもしない。

 犬ではこの高さは届かないだろ?


「どうだ、思い知ったかワン子ども! それじゃ、俺はこれで……んっ?」


 よく見ると、後から来た犬には首輪が残ってる。

 首輪が鎖で出来ている、チョークチェーンってやつだからか?

 切り口は首輪部分じゃなく、その他の持ちての鎖部分を切断、っと言うよりは溶断したような断面だな。切り口が溶けた跡がある。

 

 そんな事を考えていると、俺の巻いている首輪から、チリリンっと音が響く。


「鈴が鳴った!? ってことはもしかして、トレース!」


 あとから来た犬の首元を中心に、若干の黒いモヤが見える。

 そしてそれとは別に、目の前の道路にも黒い靄が東に向かい続いていた。


「見えた、ゾーオの痕跡だ。でもどうしてあっちに? 確かこの辺りより先は、民家は少ないよな。犯人の目的が飼い犬の首輪を切ることなら町の方に向かうだろ」


 人里離れるとまでは言わないが、これ以上先は人口密集地から離れる。

 養鶏所や学校、動物園や娯楽施設なんかはあるけど……。


「いや、まてよ? 飼い犬の首輪を切るのが目的なんて、だれがそんな事を決めた」


 首輪をつけて外で飼ってる動物が、犬ぐらいだからそう思い込んでた。

 もしかして、犯人は無作為に首輪を切っているのでは無くて、何か理由があるとするなら。


「──まさか、犯人の目的って!?」


 想像が正しければ、大変なことになるかもしれない!

 俺は全力で痕跡を追いながらも、相澤とシロルに連絡を取るのだった。

 

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