第28話 正体不明の靄

「なんだ、何があった!?」


 俺は相澤に抱き抱えられ、明かりが消えた方を見た。


 そういえば今朝、茜が言ってた。

 電気のトラブルで電車が止まったとか、それと何か関係があるのか?


 そんなことを考えていると、突如何処かで車の急ブレーキの音と、車両の衝突音が響く。


「ノアちゃん、今のって事故? もしかして、信号が止まったから……」

「あぁ、多分そうだな」


 停電の最中、この暗がりで帰るのは危険か?

 かと言って、ここに残っていても復旧するのはいつになるやら。

 なら、車通りの少ない道を選んで……。


「──ねぇ、あれ」

 

 相澤の示す方角に、一瞬火花が舞う。

 その後バチバチと連続して光を放つそれは、徐々にこちらに向かい進んでいるようだった。


「なんだ、あれは?」


 猫の姿になっているせいか、暗い場所でも目を凝らせば比較的鮮明に見える。

 俺が見据えた先では、スパークと共に電線を時折千切って進む黒い靄が映った。


「相澤グランドだ、急げ──!!」


 黒い靄は、電線伝いにこちらに向かって来る。

 俺を抱きかかえたまま、相澤は走って校門に入った。

 

「あぶねぇ……間一髪だったな」


 相澤が振り向くと、先程まで居た場所には被覆が剥がれ、銅線が剥き出しに待った電線が横たわっている。

 あれが直撃していたら、ちょっとした怪我では済まなかっただろう。


「ノアちゃん、これって……」

「あぁ、あの停電の犯人はどうやらゾーオみたいだ」


 あの靄は間違いない。

 でも今回は、人に取り憑いてた訳じゃなかった。


 俺は、以前シロルに聞いた話を思い出す。


 フェーズワン。

 ゾーオの初期形態で、食事のために人に取り付き、周囲に迷惑をかける。


 フェーズツー。

 ゾーオ一が一度進化した状態。

 不特定多数に迷惑をかけ、特定の人物を死に至らしめる状態。


 フェーズスリー。

 二度進化をむかえ、取り付かなくても周囲の悪意を食べられる。

 加えて大食漢で、人を死に至らしめる事により生まれる感情を好んで食す、非常に危険な存在。

 

「今回は、規模を考えるとフェーズスリーってのに該当するか? 初めてだな」

「私も初めてだよ……でも!!」


 俺は地面に降ろさる。

 振り向くと相澤と目が合い、どちらともなく互いに頷いた。


「この時間、部室の裏なら誰もいない。行くぞ相澤」

「うん!!」


 急がなければ、規模は今までとは比になら無い。

 彼女もそのことに薄っすら気付いているのだろう、脇芽も振らずに部室の裏へと走り出す。


「嫌な胸騒ぎがするな。思い過ごしであってくれればいいけど……」


 俺は不安を抱えたまま、千切れ落ちた電線を見送り相澤のあとについて行くのであった……。


 




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