第6話 最初の方ゾーオ戦闘

 俺の通う星彩せいさい高校の校舎は、三棟で構成されている。

 西棟は、特別教室と体育館。

 東棟の一、二階は一年。

 同じく東棟の三、四階は二年。

 そして中央棟の二、三、四階が、三年の教室だ。

 各棟はどの階も渡廊下で繋がれており、行き来は不便なく出来る。


 俺はと言うと、課題を取りに行くため、自分の教室がある東棟四階へ続く階段を上っていた。


「危ない危ない、課題完全に忘れてたよ。数学の森下先生、怒らせるとマジでおっかないからな」


 それにしても、この学校で一番怖くて有名な先生の課題を置き忘れるなんて、俺は余程疲れてるらしい。


 教室につくと、自分の机を漁る。


「えーと、あった。シロルの話だと、猫から人に戻るとき変身前の姿に戻るらしいから、持って帰れば合間をみて……。んっ? 外が騒がしいな」


 なにやら校舎の外から、悲鳴みたいな声が聞こえる。

 俺は気になり教室の窓から、見下ろした。


「喧嘩か? 止めに入っるのは……森下先生? ならすぐ収まるか」


 地面に倒れている男の上に、別の男がマウントをとり、何度も何度も繰り返し殴り続けていた。

 誰が見てもやり過ぎな行為に、偶然その場に居合わせていた森下先生が近寄っていく。 


 ──チリンチリン。


「鈴が鳴った? って、あれは昨日のゾーオ!」


 森下先生に押さえつけられた瞬間、先程までは背景と同化してまったく見えなかったゾーオが、突然姿を現したのだ。

 よく見ると、尻尾は暴力を振るっている男に突き刺さっている。

 あれで、洗脳でもしているのだろうか?


 周りには見えて無いようだけど、きっとこの揉め事はあのゾーオの仕業だ! 早く退治しないと……。

 

「くっ、かと言ってここで変身はまずいよな?」


 急がなければ。しかしまだ校内には、多くの生徒が残っている。

 もし猫になるところを見られ様なら、大騒ぎになるぞ。


 俺は仕方なく、廊下に飛び出た──。


「毎度毎度だけど!」


 俺は全速力でトイレに駆け込む。

 傍から見たら、すっごい我慢してたと思うに違いない……。


「なんて言ってる場合か!? メタモルフォーゼ!!」


 俺は首輪をして、トイレの個室で魔法の呪文を唱えた。

 すると、首輪が黒い炎へと変わり、全身に広がり身を焦がす。

 そして炎は消え、いつしか俺は猫の姿へと変わっていた。


「本当不可解な現象だ。でも今はそんな事に頭を悩ませている場合じゃない、相澤を探さないと──!」


 変身後、俺はトイレか飛び出した。

 廊下で一人、二人すれ違った生徒達から「猫がいるぞ?」っと声を掛けられる。

 しかしそんなのお構いなしだ。

 さっさと相澤を見つけないと、下手をすれば死人が出る!


「──使い魔さん、ちょうど良かった」


 階段を使い下まで降りようとした時だった。

 なんと三階と四階を繋ぐ踊り場で、偶然相澤に出くわしたのだ。


「なんでこんな所に相澤が居るんだよ! あっ、さては日輪をつけまわそうとしてただろ?」

「えへー。じゃなくて、それはこっちの台詞だよ。そんな事よりゾーオが出たみたいなの、ついてきて!」

「おい、質問に答え……。って、そっちの方が大事だけどさ!」


 相澤は階段に足を引っ掛け、転びそうになりながらも何故かゾーオのいるグランドではなく、階段の上へと上がっていく。


「おい、その先は屋上だぞ。鍵が掛かってるはずだ!」

「大丈夫だから、使い魔さん着いてきて!!」


 四階から上は、屋上繋がる階段のみ。

 窓などの出口になりそうな物も無い、相澤のやつ、どうする気で……。


 屋上扉の前につくと、そんな彼女に動きがあった。

 左手をスカートのポケットに入れて、謎のケースを取り出したのだ。

 そして、ケースについているファスナーを開ける。


「ピ、ピッキングツール!?」

「うん、何があっても良いように持ち歩いてるの」


 中には、テレビで見たことあるような解錠の道具が何本も入っている。

 そしてそれらの数本を、迷うことなく鍵穴に差し込んだ。


「な、なんかやたら手慣れてる気がするんだけど……」

「身の毛がよだつほど練習したからね」

「……なんで恐怖を感じてるんだよ。それを言うなら身を粉にしてとか、一心不乱とかじゃないか?」


 普段不器用そうな彼女が、カチカチ音をならし巧みに手を動かす。

 まさか、現実で鍵開けを拝む日がくるとは。

 

 解錠を待つ中、俺に一つの疑問が湧いた。いや、湧いてしまったと言った方が正しいかもしれない……。


「一応確認だけど、もちろんプライベートで使ったことなんてないよな?」

「……………………開いたよ」

「返事は!?」


 ドアを開け、相澤は逃げるように屋上に飛び出た。


 結局、返事は返ってこなかった……。

 身の毛がよだつとは、まさにこの事だろう。

 この時、俺の相澤に対する警戒セキュリティは、心の中でそっと上がることになったのは、言うまでもない。

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