33.孤独の煤

「一緒にしないで。私は沢山の魂を司る女神だったのよ!星が生まれて消える、何回もの間私は頑張った。ずっとずっと、一人でシナリオを作り続けて、返ってきた魂がどんどん輝きを失っていって…それが自分に返ってくる。焦り、絶望、もうどうでもいい。最後に好きにやってやろうってなるその気持ちがあなたに分かるって言うの!?」


マリアではなく女神の言葉が私に降りかかる。


ただの言葉じゃなくて、心に刺さる魔法みたいなのがかかってるのか少し胸が痛くなった。


それは知らなかった、シナリオって女神が一人で全部書いているんだ。

だから上手くいかないと怒るんだ。

じゃあ、今の変な展開もヤケな収拾って事?

もう本当に自己中なんだからっ。


「詳しくは分からないけど、大まかな気持ちは分かるわ!」


「大まか?!」


「私はヤケだろうとなんだろうと、あなたが頑張って書いたシナリオの登場人物なんだもの!登場人物には魂がある!シナリオをずれて独り歩きする時もあるって、その事を分からずにずっとシナリオを書き続けていたんじゃ上手くいく筈がないわ!」


「何も知らないくせに!!」


「知らないわよ!神様のシステムとか仕事内容は分からないけど…っ!そんなに真面目にやりすぎなくても良いじゃないの!もう悪魔一歩手前まで来ちゃったなら、女神なんてやめちゃって私と一緒に砂にでもなんでも転生しよう!」


「…仕事がこんな状態で、他の神にこれ以上みっともない姿を晒したくないわっ!悪魔になって別の仕事に精を出せば…きっと私にはそっちの方が向いてる!沢山の魂を穢してきたんだもの」


「それは闇堕ちって言うのよ!本当にそんな事言う人いると思わなかった!」


「うるさいっ!私は人じゃない!女神よっ」


「悪魔になろうとしてるくせに!」


「うるさいうるさいっ!この身体の魂を完全に穢して私に取り込めばもう終わりよ、悪夢の始まりよ。私の事は放っておいて!」


「良い加減にしなさいーっ!!」


私はだだーっと走っていって、思い切りマリアの頬を引っ叩いた。


マリアも怒って掴みかかってくる。


その勢いで、二人とも塔の端ギリギリで揉み合いになった。


止めに入ろうと魔法を飛ばすつもりだっただろうルーベルンが「危ない!」と叫んだ瞬間、


私達の足が踏むものを無くした。


風が。下から吹いてる…


塔の上からルーベルンが飛び降りて私に向かって、塔の側面を駆けてるのが一瞬見えた。


「美月さん!」


混乱していたら、ぶわあっ!と光の輪が出現しそれがそのままシャボン玉みたいになり私とマリアは空中に浮かぶ別々のその中にふわふわといた。


「せーふですの〜」


のんびりした口調で、ふかふかの毛に包まれた大きな犬に乗っている女の子が私達の目の前にふわふわ浮いている。

ロリータファッションで大きなリボンをつけたブロンド髪は縦ロール。可愛いけどいつの時代の…?と思っていたら「危なかったですの〜」と指をくるくるして地面に降ろしてくれる。


「ポミュラニエレン様…っありがとうございます」


ルーベルンが息を切らしながらロリ女子に頭を下げている。

あ、多分これは神様ね。名前長っ。

シャボン玉がぱちんと壊れて、私も「ありがとうござ…」と言いかけたらぎゅうう!とルーベルンが強い力で抱きついてきた。


「何してるんですか!死ぬつもりですか!間に合わなかったら死んでた!!」


「ルーベルン、ごめ…痛いよ。苦しいってば…ルーベルン…」


マリアは気絶してシャボン玉の中で、元の顔に戻った状態で横たわっていた。


「女神は私が連れて行くですの〜。時間の神がここに来てちょっと巻き戻してくれるから待つですの〜」


「そうなんですの…」


語尾がうつるなあ、この神様。可愛いけど。

ルーベルンがようやく解放してくれて、私はぽみゅ…なんだっけ、もうポミュ様で良いかな…に向き合った。


「マリアは…女神様はどうなるんですか?あの、その人にも事情があると思うんです。疲れて

孤独で、寂しかったからおかしくなっちゃったんじゃないかって…仕事への考えや真面目すぎるとことか…」


「ちゃんとケアしますの〜。悪魔化していても戻せますの〜。それは人間と同じですの〜。悪く変わる、良く変わる。それと同じだけの話ですの〜」


「…はい。そうですね」


「ポミュラニエレン様、女神の事をよろしくお願いします」


「いろんな世界線の戦争が重なっていて、一光年以上かまってあげられなかったですの〜。女神ちゃんのシナリオ読んであげられてなくて、ほったらかしてごめんなさいですの〜」


マリアの身体にポミュ様が触れ、黒い煤の塊みたいなものがぼわっ…と空中に現れる。

その中央にキラキラ光る人の形のものが見えた。


透き通る何かで出来た布一枚を纏う綺麗な女性の形だった。


煤ですごく汚れてるけど、中に鈴が入ってるのが見え、聞いた事のない綺麗な音色を弱々しく鳴らしてる。


「女神ちゃん…」


これが女神の姿。


「女神様。こんなに…知らなかった。僕は何も知らなかった…おそばにいたのに、あなたの声を聞こうともせずにいて、申し訳なかった」


ルーベルンもショックだったらしく、俯いた。


「芸術の神である女神ちゃんが元気になるまで、ずっとそばにいますの〜」


ポミュ様はシャボン玉で女神を包み、煤で汚れてしまうのも構わず虹色のリボンを女神の頭に結んだ。女神はつう、と涙を流して微笑んだ。


そっか、この二人は仲良しなんだ。

やっぱり寂しかったのね。


空に消えていくポミュ様と女神様を見送ってから、気絶してるマリアの手当をした。


あ、マリア鼻血出てる…ごめんっ。

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