勇者処刑編

第52話 日本での立場

俺は光司。異世界で勇者だった男だ。

最近、異世界から日本に戻ってきたところだが、最初に召喚されてから二年が過ぎていた。

そうなると、さすがに高校に復帰するわけにもいかねえ。今更ガキたちと同級生になるのも嫌だしな。

となると中卒の無職になってしまったわけだが、これからどうすべきか。

しかも、二年も無断で家を空けていたので、親父から家を追い出されてしまった。

「今更何しに帰ってきた。この親不幸ものめ」

「うちに迷惑かけるんなら、帰ってこなくてもよかったのに」

「ヤンキーの兄とかダサい。好き勝手してきたんだから、戻ってこないでよ」

親父やお袋、妹まで文句を言い、俺に冷たい目をむけてくる。

「最後の情で部屋は用意してやる。後は好きに生きろ」

そう言われて、おんぼろアパートに置き去りにされてしまった。

「上等じゃねえか。俺は伝説の勇者様だぞ。その気になったら金ぐらいいくらでも稼いでやらあ」

とりあえず金貨と宝石を売って当座の金は作ったが、働かないでニートしていたらすぐに金が尽きてしまう。

仕方ないので日雇いのバイトとして働き始めたが、どいつもこいつも俺に命令してくる糞どもばかりだった。

「新入り!怠けんじゃねえ!さっさと資材運んで来い」

工事現場のバイトをしたら、歯抜け親父に怒られてしまう。

ぶち切れて速攻でやめて、他の仕事を探すも面接の段階で断られてしまう。

「それじゃ履歴書を拝見します。え?高校中退で資格なし?うーん。それじゃ営業職は難しいですね」

薄笑いを受けたバーコードハゲのリーマン風情がバカにしてくるので、殴ってやったら警察呼ばれた。

「くそが……どいつもこいつも俺をバカにしやがって」

腹立ちまぎれに女をナンパするが、王国にいた頃は鼻もひっかけなかったブサイクたちにも相手にされなかった。

「よう。俺に付き合えよ」

「何あんた?貧乏くさいしダサい恰好。今時ヤンキーなんて流行らないのよ」

そうバカにされて、かっとなって殴りつけたらまたまた警察に呼ばれてしまった。

ちくしょう。ヤンキー高にいた頃は喧嘩が強いだけで、そこそこモテていたのに、社会に出たら通用しないのか。

いや、俺の力を必要としている所はあるはずだ。そうだ。ヤクザなら俺の腕を買ってくれるんじゃねえか?

そう思った俺は、ヤクザの息子であるヤンキー高の先輩に頼ることにした。

「組に入りたいんだって?」

「はい。先輩も俺の喧嘩の強さは知っているでしょ。武闘派の俺はカチコミするときに即戦力になりますぜ」

俺はそういって自分を売り込むが、先輩からは哀れみの目で見られた。

「武闘派?いつの時代のことを言ってやがるんだ?」

「えっ?」

キョトンとなる俺に、先輩は説明した。

「最近のヤクザじゃ抗争なんてめったにねえよ。サツに目をつけられたら自滅だしな」

「そ、そんな!ヤクザって自分の腕で飯食っているんじゃないですか?」

俺の言葉に、先輩は苦笑して首を振った。

「お前、まさか令和になってもまだヤクザが自分のシマにいる堅気を脅して、上納金でも巻き上げているとでも思っているのか?」

「違うんですか?」

「バカだな。そんなのは暴対法が出る前の昔の話だ。今生き残っているヤクザって、その時代に稼いだ金で買った土地を企業に貸して、合法的に賃料を貰って生きているんだよ。少なくともうちはな。やばいことしている組なんて、ポっと出の下っ端がやっている貧乏くさいところばかりだ」

衝撃的な事実を知って、俺は絶句する。

「まあ、どうしてもというなら仕事を紹介してやってもいいが、建設業やら解体業やら、普通の合法的な仕事になるぞ。もちろん腕っぷしなんていらないけどな」

そんな、それじゃ日雇いのバイトと何も変わらねえじゃねえか!

「そんなかったるいこと、やってられるかよ」

「そうか。それじゃ俺にできることはないな」

先輩は冷たくそう言って、話を打ち切る。

「悪いことは言わねえ。大人になれよ。やんちゃしていた奴らも、高校卒業したらそれぞれ落ち着いて社会人になっているんだ。いつまでも喧嘩が強いなんてこと自慢してたら、ますますバカにされるぜ」

冷笑を浮かべて去っていく。俺はどうしたらいいかわからなくなり、途方に暮れるのだった。

先輩と別れた俺は、あてもなく街をさまよう。

「くそ……これからどうすればいいんだ。異世界召喚なんかされなかったら……」

改めて、俺は異世界に召喚され、勇者として持ち上げられていい気になっていたことを後悔する。

もしあのまま召喚されなかったら、たとえヤンキー高でもちゃんと卒業できて、今頃はまともな会社に就職できているはずだ。

人生を決める大切な高校時代を魔王討伐なんてくだらないことに捧げてしまった結果、残されたのは学歴もスキルも人脈も家族も失ったただの男だ。

頭を抱えたままフラフラ歩いていると、いかがわしい歓楽街にやってきていた。

「仕方ねえ。今日の所はキャバクラでも行って、バーッと遊ぶか……」

俺がそう思った時、体中が痒くなり、皮膚の下を虫が這いまわるような不快感が襲ってきた。

「やべえ……酒が切れた……」

必死にコカワインを探して鞄を漁るが、異世界から持ってきた酒はもう飲みつくしていた。

「酒……酒が欲しい……」

全身をかきむしりながらフラフラと歩く俺が裏路地に入り込んだ時、怪し気な男たちが近づいて来る。

「兄さん。いい薬あるよ」

「……あるだけよこせ」

俺は血走った目を男に向けるが、奴は薄笑いを浮かべて白い粉が入った小包を見せびらかした。

「ただじゃ分けてやれねえ。ちゃんと金払いな」

「……金はねえ」

俺の返事を聞いた男は、不快そうに眉を寄せ。

「なんだ。文無しジャンキーかよ。消え失せな。ペッ」

奴らは俺に唾を吐きかけ、去っていこうとした。

そんなことをされて、俺の怒りが沸騰する。

てめえ!勇者様である俺をバカにしやがって!いいからあるだけよこせ!

俺は怒りのあまり、フレイムソードを抜いて奴らに切りかかっていった。


「はあはあ……やっと落ち着いた」

奴らから奪った白い粉をなめて、俺はやっと正気を取り戻す。

気が付けば、裏路地は男たちの血まみれの死体が転がっていた。

ああ……ついにやってしまったか。こっちの世界で初めて人を殺してしまった。

だが、勇者である俺様をバカにする奴らが悪いんだ。俺は当然の報いをくれてやったまでだ。

「きゃあああああ!人殺し!」

俺の周囲で若い女の叫び声があがる。どうやら通行人に見られたようだ。なら口封じをしないとな。

「『火炎砲(フォイヤーボール)』」

震える手で火魔法を放つが、狙いがうまくつけられず外してしまう。

「た、助けて!」

「待て!」

俺はその女を追いかけて、裏路地から大通りに出る。

その女が叫びながら人込みに紛れようとするので、俺はそいつを狙って指向性を高めた魔法を放った。

「『指向性衝撃火砲(ファイヤーキャノン)』」

俺が放った極大火魔法は、大勢の人を巻き込みながら一直線に飛んでいく。


大爆発が起こり、大通りにいた奴らが数百人まとめて焼け死んでいった。




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